楽しい幼稚園


「わぁ、ここが学校ですか!」

私立晩成高等学校。ルエはその校門の前に立っていた。

この学校は、名前こそ高等学校だが、初等部、中等部、高等部とあるのだ。

ルエの学力では、初等部どころか幼稚園が妥当だが。

「はやく行くぞ。」

「え、あ、はい!ご主人様!」

先に歩き始めた保護者、セレーネに小走りで追いつくルエ。

「楽しみですね!ここが学校かぁ、たくさんの人たちがいますけど、彼らはみんな従者なんですか?」

「ああ、そうだ。奴隷とは身分が少し違くて、頭が良くなければならない。」

「へぇ、従者さんたちはみんな奴隷より地位が高いんですよね。従者さんは、天使なのですか?」

「いいや、お前らと違って、人間だよ。」

「人間の中にも地位はあるんですね。」

ルエは驚いたようだった。

何も知らないルエは、人間の中にも上下関係があることを知らなかったようだ。

「学校は、何を学ぶところなんですか?」

「知識。」

「回答が二文字ってずるいですよぉ。」

「そのうち分かる。」

セレーネは冷たくルエを突き放す。

(ご主人様、怒っているのでしょうか…。どうして。何か悪い事したっけ…)

(全く、こんなんだから嫌なんだ。頼むから騒ぎを起こさないでくれよ。)

セレーネとルエはお互いに違うことを考えながら歩く。

「ここだ。」

セレーネが足を止める。

「ここですか?随分と…可愛いですね!」

ここは幼稚園だった。ルエはここから学んだ方がいいと、セレーネは思ったのだ。

「まずはここで集団生活から。」

「学びましたよ、そういうことなら。かなり辛かったですけどねぇ…ははは。」

ルエは昔のことを思い出したのか、乾いた笑顔を見せる。

そういえばセレーネは、ルエがセレーネに買われる前のことを知らない。だからといって聞く気もない。聞く方が無粋だろう。

「ここは、お前にとって、随分と生ぬるいかもな。」

セレーネは想像ができない。奴隷の生活がどんなものかを。

「じゃあ、ここで一から学んできます!お父様に誇れる自分になるぞぉっ!」

えい、えい、おー!

ルエは一人、砂場で元気にふるまっていた。幼稚園用のスモッグから、背中に痛々しい傷跡が見えた気がしたが、セレーネは目を背けた。

「じゃあ、一週間体験、頑張ってきます!」

「ああ、頑張って来いよ。」

セレーネはそのまま帰ろうとする。

ルエはすでに、園児たちと遊んでいる。砂まみれになりながら楽しんでいる姿は本当に、子供のようだった。

「楓、行くぞ。」

セレーネは楓の手を引く。楓はまだ小さい幼稚園児だ。

「死ぬんでしゅか。」

舌っ足らずな口調で楓がセレーネに聞いた。

「違う。お前は、生贄になるんだ。最近天候がおかしいからな。」

子供。子供の供は、お供えの供だ。子供の方が、生贄としていいのだ。

ルエは、まだこの世界のことを知らない。知らなすぎる。

「ルエがこのことを知ったら、怒るだろうな。」

セレーネは自分の頬を流れた水に、自分で驚いた。

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