第137話 旧知の仲
「主殿……」
イネちゃんたちが地上に降りて、最初に聞いたのはクトゥさんのその言葉だった。
「主殿って……どちら様?」
「あぁこの格好では確かにそう思われても仕方ない。だが高天原を見て、日向狼という男子を見てその呼び方をするのはひと柱しかおるまい?」
「いやまさか……クトゥルフだってのか?」
「神族なのだからわからないでもないが、なぜそんなグラマラスな姿になっている」
「大元の姿ではまた迫害される可能性があったのと、主殿と共にあった時の姿では舐められてしまい面倒事になり得たので致し方なかったというか……私が訪れた世界は大陸ではなく、ムータリアスという別の異世界だったのだよ」
「口調もそれに合わせたのか」
「見た目だけ変わって口調が少女のようでは意味がなかろう?」
「ま、知り合い同士懐かしむのは後にして、なんであんたらが来たのかはゆっくりと落ち着いたところでええかな」
「その喋り方……いや声の質も完全に一致しているのか……」
「まさかアスモデウスもムータリアスってところから?」
「んや、私は最初からこの世界、大陸よ。んで高天原なんつーどうしてもそれを知らん奴らが警戒しちまうようなものはさっさと軌道エレベーターの中にしまってもらってええかね、話はそこからな」
「……こっちはグラマラスからの幼女体型か」
「権能的には通常形態なんざ意味ないかんな。むしろこの世界じゃあの子……ヌーリエ様に近い体型の方がご利益があるってんで有難がられるんよ。ほら、さっさと隠してくるんよ」
「ま、知り合いがふた柱もいるのなら多少は不安も消えたって奴だ。了解した」
降りた瞬間ここまでまくし立てるような流れでイネちゃん含めた全員が何も言えずに見守るしかできなかった。
「えっと……お知り合い?」
「前に少し話題にした高天原ってのがアレよ。しかしまぁよりにもよってアングロサンとの交渉が控えているタイミングであの子らが来るなんてなぁ……色々と見直さないとやばいかもしれんな」
交渉内容を見直すって……まぁ、アングロサン側から見れば自分たちの優位性を示す要因であった人型機動兵器と巨大宇宙戦艦のうち前者の優位性が軽減されるし、先ほどの戦いでの戦闘能力を見る限りではアグリメイトアームよりも圧倒的な高性能な機体であることが伺えるわけで……。
「ついでに言うとアングロサンの空母の元になったディーバってのは、アレに乗ってたもうひとり、月読霧巴って奴が設計開発主任よ。霧巴がいるだけでアングロサンの軍事力の大半は丸裸もいいところってことになるわけよ」
「それは……なんというか……あぁでもアングロサンの文明って宇宙文明になるきっかけがそのディーバであるのなら……」
「ブラックボックスOnlyみたいな状態の奴のガワだけを真似て、偶然システムの一部が稼動しただけでアングロサン特有の技術なんざフォトンエネルギーくらいなもんなんよ。ついでに言えば霧巴は一度フォトンに興味を示しながら
「天才か……」
「まぁ、日本限定みたいな動力ではあったけどな。八百万の神の力を借りて運用するなんてファンタジーなことをしていたんやから」
そんな人たちがファンタジーファンタジー連呼してたのか。
まぁその世界での常識はほかの世界の非常識ってことなんだろうし、そういうものと認識しておくのが一番楽か。
「でもなんでそれで日本限定?」
「量産運用できるのが分霊の概念を持っていた神話領域限定だったからよ。一応機密なのだけれど……まぁこの際そこは話すことになったでしょうし別にいいわ」
ロマンからイネちゃんとココロさんが降りて会話していると、軌道エレベーターの中に高天原を格納して戻ってきた2人、えっと……確か女の人の名前は月読さんだっけか、戻ってくるなりその月読さんが会話に混ざってきた。
「とりあえず通信機、戦闘終了後もずっと通話状態よ……誰があのキメラのパイロットなのかわからないけれど」
「いや霧巴、多分この子じゃないか。セーラー服着てるが容姿がぬりえそっくりだぞ」
またぬりえって人に間違えられた……ヌーリエ様そっくりってのは何度か聞いたけれど、イネちゃんは神様的な存在と間違われるほど見た目が似ているのだろうか。
「あの子の寄り代にもなる勇者やからな。この子は一ノ瀬イネ、上空で一緒に戦ったうちのひとりよ」
「一ノ瀬……日本人か?」
「日本で育てられたっていうのが正解かな、一度孤児になってるし」
「すまん、デリケートな内容だったか」
「仇も取った……って言っていいのかわからないけど、自分の中でもちゃんと解決済みだから気にしないでいいよ。っと、ムーンラビットさんが紹介してくれたけど改めて。大陸ギルドに登録している傭兵冒険者の一ノ瀬イネ、なんやかんやあって勇者なんてものもやらせてもらってる戸籍上は日本人な大陸生まれの女の子だよ……
「「はたちぃ!?」」
失礼な。
高天原に乗ってた2人はまぁ、常識が地球だからわからないではないけれど、混ざって数人の声も聞こえてきたのはイネちゃんちょっとショックだよ?
「失礼だが身長を聞いても?」
「最近計ってないからなぁ……」
「わかった、言い直そう。失礼だが身長をこの場で測っても?」
本当に失礼になった。
月読さんは言葉と同時にどこから取り出したのかメジャーまで持ってるし……。
「1番最近の奴でイネちゃんが身長を測ったのは18の時だけど、その時は140……くらいだったよ」
イネちゃんの発言に驚いた人だけじゃなくこの場にいたほぼ全員がムーンラビットさんに視線を移した、ちょっと皆してひどくないですかね。
「嘘は言ってないんよ。後あの子と身長同じやからそこまでやるのはやめてやってな」
「そこまでぬりえと一緒って……意図的?」
「いや、全くの偶然。意図的にそういう子が生まれるのであればあの子は神託って形でうちらに知らせてくるかんな、それがなかったから確実に偶然よ」
「じゃあ先天的かしら。小人症の可能性も……」
「それもないんよ。イネ嬢ちゃんに関しては後天的……色々あって精神的、肉体的に極限……っていうか一度精神は瀕死まで逝ってるからそっちからよ」
「ムーンラビットさんそのへん理解してて塩対応してたんだね……」
「本人がとっくに自分で乗り越え済みの問題に何かして欲しかったん?」
「初めて会った時はまだ全部が全部乗り越えられてなかった気が……」
「でも結果良かったやろ?」
「まぁ……今振り返ってみるとわかったうえでイネちゃんを最前線、グワールのいる場所に誘導してたんだろうっては思うんだけど。もしかしてグワールのことも……?」
「そっちは調査結果からの予測よ。いくつかの重要局面でイネ嬢ちゃんがグワールと対峙してなかったやろ」
そういえばヴェルニア決戦の時って残ってたヨシュアさんたちがグワールと戦ってたんだっけか、あの時はイネちゃん初めて勇者の力が発動してすぐに気絶しちゃったから顛末しか聞いてないけど……まぁ確かにグワールと対峙してなかったことはあったか。
「話を戻してもらって構わないだろうか。ともあれ過去に精神が死ぬような出来事があったのであれば分からない話ではないし、追求することもやめておこう。今はそれよりも私たちの状況と立場をはっきりさせておかねばいけないからな」
それにしてはやたらとイネちゃんの年齢と身長に食いついたよね……話を戻すつもりはないからもうこの流れでいいけど。
「大陸はいろんな世界としょっちゅう接続するような世界で、今はあんたらが居たのとは違う地球、ムータリアスという世界、そして宇宙文明であるアングロサンと呼ばれる世界と繋がっているんよ。そしてアングロサンの航宙空母の中身があんたの作ったディーバそっくりだった……ま、これだけ言えば概ねまずい立場ってのは理解してもらえるとは思うんよ」
「いざこざ中なのはアングロサンだけか?」
「直近はな。地球とアングロサンに関しては概ね和平協定と国交結んで交易してるが、アングロサンに関しては数日後の公式会談が公的な初期交渉になるっていう情勢」
「なる程……それでそっちはどうしたいんだ?」
「アングロサン側でこちらと積極的に友好関係を築きたいと思っている火星側には最低限、お前らの技術の元になったオーパーツ作った奴が流れ着いてきたとは開示しておくつもりよ。思惑はなくはないが、多少こじれたところで武力衝突をしようとはもう思っていない連中やからな」
最初の衝突でイネちゃんがやったのが効いてたのか……まぁ勇者って存在が正しく抑止力になれるのであればイネちゃんとしても楽できるしいいんだけれど、木星がそうは思っていないってことだよね。
「……それではお言葉に甘えておこう。ひもろぎシステムが完全複製されるのだけは避けたいしな、私が直接説明する機会があるというのは私としてもありがたい。それで賓客扱いされるのだよな?」
「ま、衣食住は保証するし、繋がっている地球文明の範囲でネットやら娯楽は楽しんでもらって構わないんよ」
「交渉成立だ。最も、アスモデウスにしてみれば最初から既定路線なのだろう?」
「私にしてみりゃ高天原が来た時点で予定外なんよ。それじゃあ交渉が終わるまではそういうことでよろしくな。……後大陸ではムーンラビットって名乗ってるんで合わせてくれると助かるんよ」
「善処しておく……それじゃあ狼、久しぶりにワンコインラーメンでも食べに行こうかしらね」
「出撃前に食ってただろ……まぁ別に構わないが」
ムーンラビットさんの知人ということですごくトントン拍子で話がまとまっていらっしゃる……というかその前提でさっきのイネちゃんいじりをしていたわけなんだなって理解できてしまった辺り、会話の潤滑剤になれたのならまぁ……うん、言いたいことがないわけじゃないけど別にいいか。
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