第116話 ブロブ詳細
「発信機ですか」
何本目かの生木を代わる代わる匠に持ち替えながら、ココロさんはこちらの言葉に反応して聞いてきた。
「地球のものとは根本的に違うから断言はできないですけど……倒した奴の中に生きてる機関があって、そこから何か送信しているっぽい動きが確認できたので通信、ないし発信機かなと」
「状況的には発信機の確率の方が高いということですね。と、これが8本足でのビームによる近接攻撃ですか、むしろ楽ですね」
ココロさんはもう完全にブロブの処理が流れ作業になっていらっしゃる……。
「そういうことです。詳しい内容と発信機だって断言するには中佐さんなりに聞かないとできないかなって」
せめてアングロサンの巨大人型兵器であるアグリメイトアームをゆっくり落ち着いて、イネちゃんの勇者の力で調査することができればイネちゃんでも断言できるようになるかもしれないけれども……まだあちらの母艦が帰ってきていない状況でそれをやるのは色々と問題が発生しそうなのでやっていない。
「なる程、でしたらこれを処理し終わったらイネさんにその機関を破壊していただいて、後ほどウメハラ中佐さんに聞くべきですかね」
「そのほうが確実だと思います。というかやっぱり知識がないのと細かく肉眼で色々と確認が取れないというのでイネちゃんには断言は難しいので」
もしかしたらアングロサンの専門チームがいてもまだ未解明な部分だったりする可能性もあるけれど、それならそれでココロさんが提案した合同調査が生きてくるわけなのでそれほど大きな問題にはならない……とは思う。
まぁどう動くにしても今から行うべき初動の部分は変わることなく、目の前のブロブの残骸をイネちゃんが完全に活動停止させてからココロさんと一緒に森の外に運ぶということには変わりないのでお話しながらせっせと作業は進めるけど、この手の発信機って地味に稼動状態じゃないとわからないことって多いらしいのが困るところだけど……ブロブに襲われるくらいなら調査が多少困難になるのは仕方ないよね。
「イネさん、発信機の方はどこまで無力化していますか?」
「無力化されて地面にキスしてるのは全部ですけど」
「なる程、ではそろそろこちらで浮いている残りを片付けて運搬を始めないといけないですね」
その会話の直後、ココロさんは手に持っていた生木を蹴り飛ばす形で1機貫き、いつもの棒を背中から抜き出したと同時に踏み込んで一息に残りのブロブをそれぞれ縦横斜めにど真ん中風穴空けと蜂の巣までやって踏み込む前の立ち位置に戻っていた。
いや本当既に人間卒業済みの動きだよね、お父さんの持ってる創作だと師匠ポジか主人公に立ちはだかる超えられない壁みたいなそんな領域に到達済みというか……やっぱあの師匠から生まれるのはこういう弟子ってことなんだろうか。
「それではこいつらの発信機無効化をお願いします。私は既に無効化されているブロブを森の外へと運びますので」
「あ、はい」
「気をつけてくださいね、発信機を壊したとは言っても来ないという保証にはなっていないのですから」
ココロさんはそれだけ言ってブロブの残骸をまとめて5機くらい担いで跳んでいった。
「やっぱりササヤさんやココロさんを見てると感覚麻痺してくるよね……」
『上を見てても仕方ないんだから、私たちは自分の役割をやろうか』
最近イーアがドライな気がする……イネちゃんの気が緩んでるだけかもしれないけれどちょっと寂しい。
イネちゃんがちょっと落ち込みつつもしっかりとブロブの発信機を無力化して、ココロさんが戻ってくるまでの間にブロブの構造を改めてもう一度しっかり調べて見る。
装甲材はイネちゃんが知っている範囲ではないのは以前確認した通りで、性能などを含めて1番近いものを挙げるとすればチタンとセラミックのいいとこ取りしたようなもので、確かコーイチお父さんの持っているアニメのロボットの装甲材にあったようなチタンとセラミックの複合材と言えばいいのだろうか、とりあえずそう言う感じなのが最も近いと思われる。
『装甲厚が5cm、戦車とか戦闘を行うロボットであるのなら薄い気がするね』
「装備もビームのみ、規格が完全統一されていることを考えると戦闘目的というよりは強行偵察機みたいな位置づけがされてるんじゃないかな」
『まぁ知らない場所を調査する前提であるのなら理解できるけど……それはそれで過剰じゃないかな』
「ただの偵察機にしては重装甲、戦闘用にしては薄すぎるっていう中途半端な位置づけだよね。ただ、ただこうも考えられないかな、未知の領域だからこそそんな中途半端な性能を持った装甲を採用しているって」
『可能性の話を出ないね』
「まぁ、その可能性がいくつあるかを調べるのがお仕事だし」
『だね』
ただこの装甲であるのならば遠距離武器が弓矢に限定されている世界であるのなら問答無用、最も原始的であるけれど最も安定している大質量兵器である投石器などに関しても万が一直撃しても数発なら問題はないと思われる。
地球レベルの技術があったとしても先進国の歩兵が通常装備しているような火器では8本ある足の先についているビームの銃口を狙う必要が出てくる上、有効打にはなりえない……まぁ流石に20cmクラスの戦車の正面、側面装甲を貫けるような武装や持ち出せば問題なく撃破できるけれども、偵察機相手に対物狙撃銃や戦車の主砲、戦闘ヘリや戦闘機を飛ばす労力を考えれば絶対的に分が悪い。
「ブロブだけなら地球は撃退できるけど……ハリウッドのSF映画みたいにかなりの阿鼻叫喚な事態になる想像しかできない」
倒しても何度も何度も増援が飛んでくることを考えると、最終的に武器弾薬、燃料の問題でジリ貧になる。
となれば充填が容易で中身を停止させられる、イネちゃんもとった選択肢である高圧電流による攻撃がベストなんだろうけれど……。
『私たちが使ったのは人型ロボットですら機能停止するレベルの電流だったからね』
「機械が相手であるのなら有効だったってだけで……まぁ確かに最大出力だと地球のそのへんの発電所の最大発電量よりも大きい電力が必要だったけどさ、一応は制御システム次第でバッテリー運転もできるわけだからさ」
『最大出力で何発撃てるかって話ね』
「そこを言われたらどうしようもない。まぁどのくらいの出力で行けるかはもっと詳しく調べてからかな」
幸いなことに、ココロさんが最後に撃破したブロブは見事なほど綺麗に切断されていてブロブの中身を確認するのに申し分ない……というか勇者の力を使わなくてもある程度内部構造を確認できて尚且つ切断面を考慮すれば配線や機器の配置まである程度推測できるレベル……。
「イネさんでなくとも調査を進められなければいけませんからね、一応気を使わせていただきましたが……足りなかったでしょうか?」
「うぉわぁ!?」
「驚いているが……」
「いやぁこの反応が可愛いのではないですか」
ココロさん、急に真後ろから声をかけてくるのは趣味の一環だったのか……ってもうひとり男の人の声が聞こえたような。
「ところでなんで私はここに呼ばれたんだ?ブロブ知識だけなら技術士官もいたのだが……」
「道中における道すがらに居たのが中佐さんである、ただそれだけです。それに既に運搬済みのブロブをヌーカベ車に待機されている方にも調査をして頂いていますからその都合でもありますね」
「しっかりとした理由があるのなら別に構いませんが……ブロブがこのように無力化されているのは初めて見ましたね、ファーストコンタクトの時には実弾兵器中心だったこともあり似たような無力化が行われたとの記録はありますが、私は見るのは初めてですね」
「中佐さんに聞きたいことは1つだけなのです。ブロブの発信機について何かご存知でしょうか?」
「発信機?」
イネちゃんが蚊帳の外状態だったけれど、中佐さんの今の疑問符で知らないことは1発でわかったよ。
「イネさんの勇者の力による調査でわかったことだったのですが、どうにも何かしらのものを外部に送信している機関が存在していて、活動停止状態に持ち込んでもそれだけは動いていたとのことでした。もしアングロサンの方々がそれをご存知ではなかったのであれば……」
「今の上から徹底されている命令は、対ブロブであれば迷うことなくビームで蒸発させろと言われているが……それだけでは真意がわからないな」
「単に厄介だから躊躇するなと言っているだけなのか、発信機に気づいていて完全に消滅させるべきか……どちらにしても蒸発ということであれば結果は同じですからね」
2人の会話が盛り上がっているところで取り残されているイネちゃんは勇者の力で色々と調べを進めてはいるけれど……樹脂を含めて有機物が全くと言っていいほど使われておらず、イネちゃんが戦闘中深く考える時間がなかった時に感じていた『勇者の力で全てを制御できる』というものは間違いではなかったようで、ここで1つ疑問が頭に浮かんできた。
「こいつの動力線って……どこ?」
中身はぎっしり詰まっていて、エネルギーをバイパスするべき銅線もパイプも存在していないのだ。
そしてビームの材料がないということは先ほどココロさんとお話していたときに浮かんでいたのでそこに驚きはしなかったが……。
「それに、そもそも動力源は?」
機械であるのなら当然あるべきの、生物で言えば心臓にあたる機関の
「アングロサンの技術者なら何か知っているかもしれませんが……申し訳ない」
イネちゃんの呟きに気づいた中佐さんが謝罪してきているけれど、こんな謎の塊に関して多少なり解明し、一部技術の再現……もしくは類似品を制作するに至ったアングロサンであるのなら確かに可能性はある。
一番可能性としてイネちゃんが考えていたフォトンエネルギーでもないのであれば、このブロブは本当にどういう存在なのかという気味の悪さを感じるハメになったイネちゃんなのであった。
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