第115話 ブロブの謎
「ふむ……これはなかなかにたの……厄介そうですね」
「今楽しそうって言いかけましたよね」
「気のせいですよ。しかしビームは高温になるのであれば周囲の木々にもっと影響があっても良さそうなものなのにそのような痕跡がありませんね」
「あぁ……そういえばそうですね、同士打ちさせた時のフレンドリーファイアの部分にしても焦げがない」
確認にはココロさんとイネちゃんだけにして、他の皆にはハルピーの里と生態調査のキャンプの防備を任せて、戦闘をした現場を確認していた。
そして今確認したのはビームによる戦闘痕を見ているのだけれど、どれもビームが直撃したり、掠めた時に発生するような痕跡が残っていない。
「となるとレーザー的な何か……でもイネちゃんが勇者の力で解析したときには紛れもなくビームだったんだけどなぁ」
「では温度に関しても制御されていたのでは?外に熱を逃がさないほどに空間を固めるようなことをしていたとするのであれば説明ができますし」
「それだともう重力とかそういうのを制御しているレベルですよ」
「ありえないことではないのでは?イネさんだって飛んでいらっしゃいますし」
そういえばそうだった。
でもあれは架空金属粒子の特性によるものであって、直接現象を制御しているわけではないんだよなぁ、Gとかの制御はしてるけど。
「それにこのブロブとかいうもの、空を飛んでいたのではないですか?」
「……そういえば」
確かに飛んでいた。
おじいちゃんはそのせいで持ち上げてから急降下をしなくちゃいけなくて攻撃に時間がかかっていたし、何より体力も激しく消耗してしまうから攻撃を受けてしまったわけだしね。
「そもそもウメハラさんの話では空の更に上、星の海からここまで降りてくる必要があるわけですからね、飛べないにしても滑空できる能力がなければ無理なはずです」
それもそのとおりであった。
そもそもアングロサンの人たちと戦闘していたというのであれば、あのタコの形状で宇宙空間を移動できなければいけないわけで、それ相応の推進機関が存在しているわけだ。
しかしそうなると怖い事実も起き上がってくる。
「2mあるかないか程度の大きさに、宇宙から地上、地上から宇宙に移動できる推進能力を持っていて、尚且つ8本の腕部パーツからライフルとソードの切り替え能力を持った超高性能ビーム兵器を装備しているような技術って、相当やっばい存在だな」
「それほどまでにですか?」
「イネちゃんがいつも選択している動力だとまず無理ですね、動力になる部分だけで機体の半分以上を占めちゃいますから。そこに推進能力を得るためのエネルギーを作ったり貯めたり製造する場所が必要になりますし、ビームだってその元になる金属粒子を保管しておくスペースが必要です。更に言えば機械である以上はそれを制御するためのシステムが必要ですから、処理するための機械も必須になりますよ」
「聞いているだけでこの大きさには収まりそうにありませんね……他の動力ではどうなのですか?」
「いつも飛ぶのに使っている金属粒子を無限に生成できるのであれば、推進とビームのエネルギーは同じで良くなります。ただこれは完全な永久機関に等しいものなので本来なら不可能ですよ……あちらの世界がどういう技術体系をしていてどういう文明、物理法則をとっているのかということがわからないと絶対とは言い切れませんけど」
「他に思い当たるものは?」
うーむ……ココロさんはとことん可能性をしらみつぶしにするタイプみたいだ。
イネちゃんが思いつく範囲で、永久機関ではなく、ビームエネルギーにもできるレーザーに近しいもの……。
「あ……1つなくはないかも」
「どのようなものですか?」
「光です。フォトンとかそう呼ばれるようなものであれば可能性は否定できないです。ただフォトンに関してはイネちゃんは再現できませんよ」
少なくとも今は、という但し書きがつくけれど、イネちゃんの場合核融合系から準永久機関系、または縮退炉みたいなものにしていったほうがフォトンよりも圧倒的な出力を確保できるし、何よりも最悪の状況になれば相手を宇宙空間まで持って行って強い慣性をつけて遠ざけるようにしてから縮退炉を暴走させてブラックホールしたほうが絶対強いので意識の外だった。
「とりあえずこの残骸は回収して調べる工程は省けそうにありませんね」
「まさか聞くだけで済ませようと思ってました?」
「既に情報を持っていらっしゃるアングロサンの方々と、この手のものに強い勇者の力を持っているイネさんの見解で終わるようでしたらそれで済ませる予定でしたよ」
リバースエンジニアリングをしているアングロサンの人たちなら確かにとは思うけれど……イネちゃんの場合どういう構造でどういう作用をするかの判別はできてもどうしてこんなものが生み出されたのかとか、判別できた内容に知識が追いつかなかった場合よくわからんとしか答えられないんですが……。
「幸いブロブは複数存在していますからね、大陸以外にも調査を行っていただく形にすればそれぞれのアプローチで情報が得られるものと考えますが……」
「うーん、地球の方は国の思惑ってのが絶対絡んできそうだしなぁ、とはいえ国家が関わらないとまず調査の手がかりすら得られないものだろうし……」
「そこはムーンラビット様が適材を現場責任者にしてくださるでしょう。3世界合同調査と銘打てば技術を独占しないと自称ではなく他称で断言されるヌーリエ教会の人間が責任者に任命される可能性は極めて高いですしね」
「そうならない可能性も否定できないけど……ほら、今回アングロサンっていう事前知識を持った存在がいるわけですし」
「不確定要素ではありますが、あちらの方々は客分である自覚がありますし接続している世界で共有するということでしたら……えーっと、あぁ確かアドバイザーとかいうものに収まってくれると思いますよ」
となると4世界合同ではという思いが頭によぎるけれど、そもそも科学技術という面だけで言えば地球以上に進んでいる世界で、既に研究済みなのは中佐さんのお話で証明済みだし、情報共有と別の角度からの調査という点では意味があるのかな。
「さて、そうなると完全に活動を停止しているのかを確認した上で最低でもシックまで運搬しなければならないわけですが……」
「イネちゃんが運搬用の奴作らないといけないです?」
「作っていただけたら嬉しいですが、イネさんに1番やっていただきたいのは活動停止が完全かどうかですね。万が一生きているものがいればアングロサンと大陸以外の2世界が危なくなりますし」
「なる程、そういうことならちゃちゃっとやっちゃいますね」
「お願いします」
確かに運搬だけならココロさん単独でもできそうだし、ヌーカベ車が森の外にいるのだから生態調査のために物資を積み込んでいた荷台を使えばいいだけの話だしね。
イネちゃんは納得しながら勇者の力で周囲一帯を索敵しつつ目の前の広範囲に広がっているブロブの残骸を細かく調査する。
「……確か戦闘中に援軍があったんでしたね」
「え、そうですけど……」
「イネさんはこのまま調査をお願いします。どうやら別の個体が近づいてきているようですので、そちらは私に任せてください」
ココロさんはそう言って普段使っている棒ではなく、そこらへんにあった長めの生木を蹴り上げて握り、構える。
「いやぁ最近出来ていませんでしたからね、良き鍛錬になってくれればいいのですが……」
いや相手は思いっきりビーム垂れ流してくる情報持ってるのにちょっと舐めすぎじゃないですかね……、しかも今ここにはヒヒノさんがいないわけでどんな状況に陥ったとしても本気に転じるのが難しいのに大丈夫なのだろうか。
『万が一……なんとなーく億が一くらいな気がしなくはないけど、ココロさんが危なくなりそうだったらこっちで何とかするから、イネは調査に集中してていいよ』
イーアの歯切れの悪いことを言ってきたけれど、まぁ確かに今は信じるしかないわけだし、調査を進めないと次の行動にも支障が出ちゃうわけだからね、イネちゃんはこのまま調査を進めておくことにする。
「なる程なる程、これが光に近いというビームという射撃武器ですか。確かに生木では防ぐのもいなすのも難しそうです」
そもそもビームが特殊装備とかでないと無理なレベルだってツッコミを入れたいところだけれど、その無理を可能に変えちゃいそうな人を1人知っているので改めて調査に集中する。
「しかしながらこの攻撃は私にとっては地球の銃よりも簡単ですね。発射と着弾が一緒であるのならばただのリズムですし、何より私の勇者の力であるのならば……」
その言葉の直後、ココロさんに向かって飛んできているビームが途中で霧散して無力化し始めた。
「大気濃度を少し調整してしまえば怖くもなんともありませんね。やはり物理的な何かが飛んできている方が私にとっては驚異なのは変わらないですか」
どうやらブロブ側がノーチャンスな相手だったようだね……というかココロさんの勇者の力が大気濃度にまで影響を与えられるなんてこと初めて聞いたんだけど。
ココロさん側の戦闘がとりあえず負けることはないという状況であることを確認したところで、イネちゃんの方でも少し気になる感覚をつかむことになった。
「これって……発信機?」
どういうものか、詳しくはわからないけれど以前倒したブロブの中で発信機と思われる機器が生きいるのが確認できた。
とはいえ地球で使われているものとは根本的な構造が違うし、イネちゃんが発信機かなと思った理由も機器が生きていたからこそ、それっぽい動きを認識できただけだからね、しかも今みたいに戦闘を全部任せられる人がいて、調査に全力を向けられる状況でやっとわかるほど微弱なもの……。
「せぃ!ふむ、両断は流石に難しいですか」
イネちゃんが謎の発信機らしきものについて悩んでいるときにココロさんはそのへんの生木でSF的なキリングマシーンを戦闘不能にしながらも両断できなかったと呟いていたのだった。
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