第114話 フライングバトルタコの正式名

「トーリス……ウェルミス……」

「久しぶりだなロロ!」

「再開を喜びたいところだけど今は先にやるべきことがあるでしょう」

「おっとそうだった。さっさと援軍を呼ばねぇとな」

 久しぶりの再開をした3人は喜びをあらわすのも束の間、すぐに状況を整理して行動を次へと動かしていた。

「キュミラさんでしたか……申し訳ありませんが、ギルドとヌーリエ教会、それにこの地域の責任者の方に連絡を取れる方のもとへ今お話した内容を伝えてもらえないでしょうか」

「いいッスけど、それなら森から出た場所でココロさんとヒヒノさんがいるッスよ」

「マジか、勇者全員がここに集まってるとかどんな状況だよ……」

「新しい異世界……すごい、から……」

「ま、それなら話は早いな。長老にはすまねぇが……」

「はい、直接こちらから赴いて事情をお伝えしたほうが良さそうですね」

「あぁそれなら恐らく大丈夫かと……疲労を取る意味合いでも少し休憩するのをオススメしますよ」

「あなたは?」

「あぁ失礼しました。私は一応今回の生態調査のリーダーとして動いております、ジャクリーン・フルールと申します。お二人は重剣と空神官でよろしかったでしょうか?」

「フルールって……貴族の大物じゃねぇか」

 うん、少し流れを見守っていたけれどこれならイネちゃんはゆっくりできそう……でもないか、設置したターレットの動きとかを確認しておかないといけないし。

 ただまぁ説明や状況整理をしなくてよくって、単純に前線で戦っているだけでいい役割に収まれるっていうのは大変楽でいい……。

「申し訳ありませんが、イネさんがゆっくりできるのはもう少々後のことですよ」

「うひゃぁ」

 変な声出た。

「異世界アングロサンの駐留部隊最高階級の方をお連れしました」

「イツキ・ウメハラ中佐です」

 ココロさんが縮地でもしたのか急にイネちゃんの後ろに立っていた。

 中佐さんも声が微妙に震えていた辺り絶対恐怖心が残っていたよね、絶対。

「ココロ様、お久しぶりです。さきほど私たちは空飛ぶ銀色のタコらしきものと交戦し……」

 いやウェルミスさんも驚くことなく受け入れるの早すぎない?

 今は驚くよりもココロさんと情報を共有して体制を整えるほうが重要なのは間違いないけれど、順応が早すぎてそっちにもイネちゃんちょっと引いてしまうよ。

「それはもしかしてこいつではないか?」

 中佐さんはそう言って自身の端末を操作し、ホログラムを表示する。

「えぇこれです。このタコ型は1度見ればなかなか忘れませんから」

「我々以外にもワームホールに入って居たか……こいつの名前はブロブ。知的生命体の敵だ」

 規模が一気に大きくなった……というかウェルミスさん本当に動じないな、トーリスさんはさっきから話の内容についていけなくてロロさんに構ってもらおうとしてはたしなめられてるっていうのに。

「知的生命体の……?」

「少なくとも我々の世界では、だが……襲われたというのであればその可能性は極めて高い」

「でも機械、マシンだった。それは確実。そしてあれが使ったビームはアングロサンの技術とは別ベクトルだけど根っこは同じ物……だよね?」

 イネちゃんが割り込んで必要になる可能性が高い情報をブチ込む。

 まぁビームに関しての情報とかイネちゃん以外が出せるものでもないから、遅かれ早かれイネちゃんが聞かなきゃいけないことだったんだけどさ。

「アングロサンで使用しているビームは連中の技術を解析して作られたものだから当然と言えば当然だな」

 鹵獲したもののリバースエンジニアリングして組み立てたのか……ということは普通に実弾で倒せるってことか。

「ではあのタコ……いえブロブでしたか、その正体というものもご存知なのですか?」

「いえ、わかったのは動力と武装に関する技術のみで、何故攻撃してくるのかなどを把握するまでには至っておりません。アングロサンも一枚岩ではないことも手伝い戦線の維持もギリギリ、調査を進めようにも……お恥ずかしいことです」

 うーん……でもなんかイネちゃん、ブロブって単語に聞き覚えがあるような気がしてるんだよなぁ、なんだっけか。

「イネさん、ビーム……というモノについて教えていただけないでしょうか」

「え、あ、あぁはい、ビームですね」

「何を考えてたッスか……」

「いやぁブロブってどこかで聞いたことがある感じがするなーって。それよりもビームっていうのは特定の物質を超々高密度に圧縮した物質全般のことを指すか、定義次第では完全な光学兵器、普通ならレーザーと定義されるようなものも混じることがあるかな。少なくともアングロサンの人たちとブロブ、それにイネちゃんが使ってるものは前者に該当するビームだよ。後者だとイネちゃんの力じゃ再現もできないし、出力次第では防御も難しいよ」

 まぁできなくはないけど、それでも専用装備の範疇にツッコムことになるからあまり作りたくはない……別の方向に利用するにしたって鏡でいいってなるからね。

「アングロサンで使われているものであれば大気の塵を利用するものと、宙間戦闘用のバックパックタンクを利用するもので分かれている。前者の方が低コストで量産可能かつ残弾を気にしなくていいメリットを持つが、塵がなければ運用できん」

「宇宙用の方は重量の問題かな?後製造コストは間違いなく高くなりそう」

「あぁ、そういうこともあってこの地域の大気成分などの調査が終わらなければアグリーを運用するのが難しかったわけだ、ジェネレーターとフレームから換装する必要があるからな」

 イネちゃんが戦った時にはそんなデカ物を背負っていなかったし、もし背負っていたとすれば縮退して安定している物質が爆発なり漏れるなりしていてもおかしくなかったからね、スパークナックルもタイミング選ばないと大惨事を招きそうだ。

「何故高温になるのですか?」

「それは分子……物質の構造の本当に小さいところの話なんですけど、その性質の問題です。ただ……」

「ただ?」

「イネちゃんも説明できるほど詳しくないです!実際現象は把握しているし、制御する手段も勇者の力の応用でできるんですけど、原理まで全部理解しているかと言われると答えはNO、理解せずに使ってるんですよね」

「あぁ……なる程、ランタンを灯す手段とその火を維持する手段は理解できているが、どうして明るくなるのかをわからないみたいなことですか」

「まぁそんな感じです」

 イネちゃんの場合は他の人よりも理解していなければ使えないのだけれど、それでも『何故火は燃えるのか』とかそんな問いに対して科学的、化学的の双方から完璧な回答ができるレベルを要求はヌーリエ様のおかげでされていないので流石に説明できるほどの知識は持ち合わせていないのだ。

 でも確か分子ってその物質の持つ性質で常温からの変化が大きすぎれば存在自体を保てなくなるとかそんな性質があったってどこかで聞いたことがある記憶もあるし、概ね間違ってはいない……はず。

 ビームに関しては体積を極限まで圧縮して熱を得ているだけだからね、いっそ縮退している現象自体をぶつけることができればそれだけで相手を消滅させられるレベルのことやってるんだよなぁ……それこそブラックホールを制御するみたいなことをしなきゃいけないから今のイネちゃんの勇者の力ではまず無理なんだけどさ。

「しかしなる程、一度ビームを直接受けてみてみたいですね」

 ココロさんがとんでもないことを言い始めた。

「正気ですか!?」

 これは中佐さん。

 うん、気持ちは大変よくわかるよ、今イネちゃんがしたビームの説明を聞いてそれで受けたいなんて言い出したわけだから。

「正気ですよ。イネさんのものは何度か見ていますし、ビーム自体が金属粒子であるということも聞いたうえでの判断です。それに師匠もビームと対峙したいと思っていると思いますしね、弟子としては先に体験することができるのは大変光栄なことです」

「死にますよ!?」

「大丈夫ですよ、むしろ私は棒術で対処する分師匠よりは安全です。師匠であれば素手、それも指で弾く可能性すらありえますから。それに私の場合ヒヒノと双子であるためいくつかの庇護を共有しておりますからね、熱に対しての耐性は私は師匠以上です」

「熱と言っても限度があるぞ!ビームの発する熱は数千度……」

「なら余裕ですね、ヒヒノが出す熱はもっと高い温度……それこそ太陽やそれを上回る熱を操ることもできますから」

「……慣れたと思っていたがやはりファンタジーは異常の集まりなんだな」

 異常扱いされてしまった……いや気持ちは大変よくわかるけど。

「とはいえ今はそのブロブとかいう存在に対しての対処法を確立して備える方が優先ですね、それでは戦闘が発生した場所まで案内をお願いします。後どなたか森の外で待機しているヒヒノたちにも連絡をお願いします」

 ココロさんが強引に話題を変えてる……ともあれ実際今はブロブへの対処を考えないといけないからそれでいいのだけれど、こうして他の世界の人に大陸は戦闘民族だとか変な印象を与えてしまうような気がするイネちゃんなのであった。

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