第113話 ギルドトップ2

「この者に大気の力を……」

 ウェルミスさんがおじいちゃんに治癒魔法をかけるのを見ながら、イネちゃんはトーリスさんとお話していた。

「んじゃロロはハルピーの里か」

「そうだけど……2人はなんでここに?ご都合主義みたいな感じだったし凄く助かったけど」

「ギルドからこっちに人が足りないおまけに森に隠れる形で暮らしているハルピーの現状確認を依頼されてな。ウェルミスがノオ様の神子ってことだから完全に名指しの依頼だったから俺たちが来たわけだ」

 なる程、そういうことなら確かに適材も適材だよね。

「それじゃあこっちからも質問させてもらうが……このタコは一体なんなんだ?」

「うーん……イネちゃんも今回初めてだから詳細とかは全くわからないかな。ただ新しく繋がった異世界と似た技術であるってことは勇者の力で確認してはいるけど」

 厳密に言えば違うのだけれど、基本的な技術の根っこの部分がほぼ同一と思われるし、ビームの縮退率こそ違ったけれど、その縮退されている物質に関しては全く同じ物であったから概ね同一と考えて問題ない……はず。

「勇者の力ってのは便利なんだなぁ……」

「たまたまだと思うけどね。イネちゃんはヌーリエ様の力を一部使えるってことで相手が金属なら負けることはないくらいに相性がいいから」

「その割には苦戦してたみたいだが」

「まぁ……言い訳になるけど、まとめて蒸発するような火力使ったら森がね」

「なる程、悪かった。しかしまーた別の異世界か……勇者が3人も生まれるんだからそりゃそのくらいに激動の時代になったりするのか」

 情報を飲み込む速度と適応具合が半端ない……まぁ大陸のヌーリエ教会以外で世界の治安を守っているギルドのトップランカーなのだから何が起きてもってところはあるのだろうけれど、流石に理解が早すぎないですかね。

「ノオ様の力はやはり体に沁みますなぁふぉっふぉっふぉ」

「できれば安静にしていて欲しいところですけど、今は状況的に難しそうなので……」

「いいえ、これも儂の油断が招いたことじゃから神子様がそんな畏まられるようなことはありゃしやせん」

「終わったか」

「応急手当程度は」

 ウェルミスさんは応急手当って言ってるけれど、ビームで両断されたはずの腕翼が綺麗にくっついているように見える……やっぱ適切な加護のちからでの治療だと回復が早いのだろうか。

「とりあえずイネ様……ロロが待機しているというこの方の里まで移動しませんか?」

「急ぐ理由は?」

「ノオ様の神託で近々この辺りに交渉すら不可能な外敵が現れると仰っていまして、このタコはそれに該当するような存在なのかと思い……」

「更なる追加が来る前にってことか……」

「はい」

 ウェルミスさんはよどみなくはっきりと頷いた。

 実際戦闘中に援軍が来ちゃったわけだから否定できないし、むしろその可能性は大いにありうるとして話を進める必要が出てくる。

「でも動物の避難もやらなきゃいけなくなりそうなのが……」

「どの程度防げるかはわかりませんが私が悪意払いの結界を張りますので、少なくとも緊急事態を報告するだけの時間は取れると思います。幸い結界の内側にはハルピーの方々がいるわけですしね」

「ルズート領ですけど……」

「当人が倒れてヌーリエ教会が入り、実務はフルールの方と聞いておりますから」

 既に知ってたか。

 問題はフクロウハルピーの人が言ってくれるかどうか……まぁ、実際には森の外にいるココロさんとヒヒノさんに伝わればそれで大丈夫になるだろうとは思うけれども、勇者とはいえ2人が増えただけで何かが変わるのかという不安の方が大きい。

「それに治療したとはいえ本来はまだ動かない方がいいほど消耗してしまっている方を戦いの場に残しておくリスクは極めて高いものがありますから……」

「……まぁ、それもそうだね。じゃあちょっと森が傷ついちゃうかもしれないことはあらかじめ謝罪しておくよ、おじいちゃん」

「何をするのじゃ?」

「こうしておくの」

 自動迎撃できるターレットを木の陰に勇者の力でいくつか生やす。

「これは……」

「ウラン弾頭の自動迎撃ターレット……って言ってもわからないか。ようは大陸で広く使われてる重金属の武器を電気の力で動かして発射する武器。詳しい識別とかは勇者の力だと難しいから動く大型のものを自動迎撃する設定にしてあるから森が傷ついちゃうかもしれないけど……」

 大陸では放射性物質が普通の道具として運用されることが多い。

 これはヌーリエ様の加護がある人であれば無条件に放射線に対して耐性がある……というかそもそも大陸の、地球で不安定物質とされているものですら自然界で安定した状態で存在している上に、包丁とかナイフ、刀剣や果てには鎧などに加工しても安定し続けて、更には焼入れなどを重ねに重ねた鋼鉄並かそれ以上の硬度を誇っているにも関わらず、地表などで採掘できてしまうために一般的な金属として普及しているわけである。

 なので地球で使われるそれよりも安心安全に運用自体はできるのだけれど……大陸以外の人にとってはそんな安定状態の物質であってお放射性物質であることは変わりないので、地球からの観光客などを受け入れる体勢を整えるに辺り最近ではそのへんの放射性物質から鋼鉄製のものに替えていっているらしい……まぁ今は関係ないけど大陸ではあまり珍しくもない物質である。

「それは……地球の武器ではないのかの?」

「近いですけどね、似た感じの兵器はあるけど地球ではまず弾としては放射性物質は使わないですからね」

 劣化ウラン弾というものは存在しているけれど、非人道兵器として認定されてからは対テロでも使わないらしいから嘘は言っていない……よね?

 ちなみに迎撃兵器としてのターレットは普通に存在するので、そっちの意味で聞かれていたのならちょっぴり嘘をついたことになってしまうけれど……それは指摘された時に訂正すればいいよね。

「ま、別に問題ねぇさ。これで撃退できればそれで良し、できなくても時間稼ぎにはなるだろうから過去の苦い感情は飲み込んで今やるべきことをやろうじゃねぇか」

「トーリスの言うとおりです。技術と道具はそれを扱う者の心で立場を変えるものですから」

「……そうじゃな、ノオ様ならむしろ積極的に運用して見せよとおっしゃることじゃろうて」

「えぇ、ノオ様は戦神で在られますからそう仰ると思いますよ」

「神子様が仰るのであれば、従いましょうて……ヌーリエ様の勇者殿にもわがままを言うてすまんかったの」

「いえ、実際これが起動してしまえば銃口が向けられている方向の一定範囲内に入った大型動物も撃っちゃうでしょうから……」

「だから起動する前に援軍の要請をだして戻ってこれれば問題ねぇってことだ。昨日がっつり寝ておいたから3日くらいは起きていられるぜ」

「寝ずの番は効率が悪いと言っているでしょう……まったく。さて、里まで案内して頂いてもよろしいでしょうか」

「じゃあイネちゃんが先導するから、トーリスさんはおじいちゃんをお願いしていいかな」

「おう、任された」

 でもまぁ……あのタコが宇宙文明の兵器であるのなら今設置したターレットでは持って数十秒程度だと思うし……。

『神話物質で補強はしておいた。でも銃口にビーム撃ち込まれたらどうしようもないのは同じだから急ごう』

「あ、イーアありがとう……でも神話系ターレットって文字にするとすごいものになりそうだよね」

『どうでもいいから……』

 そんなたわいもないことを頭の中でやりとりしつつも、イネちゃんたちはフクロウ型ハルピーの里へと急ぐのであった。

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