第112話 フライングバトルタコ
「あれのようじゃ……このままでは里に入るのも時間の問題かのぉ」
「えっと、とりあえず現状確認したいんですけど……あれって、タコですかね?」
「儂にはそう見えるが」
イネちゃん、空を飛んで金属金属しているタコとか知らないんですけど。
「ともあれ倒さねばならん……お客人であるヌーリエ様の勇者殿に手伝いを頼んでもええかの」
「いやここに連れてきた時点で確定じゃないんです?」
「ふぉっふぉっふぉ」
うん、わかってやってたよね、絶対。
「断られても儂の戦いを見届けて貰えるだけでも十分ですじゃ」
「はぁ……もうここまで来ているんだし、あちらも複数いるからやりますよ」
「ありがとうございます……」
わざとらしいけれど、見捨てるつもりはこれっぽっちもないのでどういう選択をしていたとしても、目の前で起きた出来事に対しては考えながら行動してただろうしね、まぁ後で何かもらえないか交渉するけど。
「じゃあイネちゃんは右の奴をやります。できるだけ早く済ませてそっちの援護に向かいますから、無理だと思ったら迷わず逃げてくださいね」
「委細承知しました。それでは……ふん!」
気合を入れたおじいちゃんの方を見たイネちゃんの視界には、それはそれは見事な筋肉ムキムキマッチョボディで勢いよく飛んでいくおじいちゃんの姿が……あったのだったぁ……。
『イネ!驚くのはわかるけど前!タコが来る!』
「っは!あまりの想定外の出来事に意識飛びかけてた!……それはそれとしてイーア、あちらの金属って確認は?」
『取れてない。どうにも地球でもムータリアスでも大陸でも神話でもない別の分子構造のものってだけはわかったけど、まだ解析できてないからあまり防御しすぎないでね』
そのへんとは違う物理、分子構造……。
「イーア、アングロサンのアグリーに使われてる金属との構造確認!」
『……ビンゴ、今やってたけどあっちの世界の構造してた。解析できたからガンガンやっちゃっていいよ!』
「言われなくても……!」
なんで地面についていない相手の探知と調査が出来ているか、不思議に思う人もいるかもしれないから戦闘中だけどちょっと説明すると……イネちゃんの装備、特に実弾兵装であれば弾頭からの情報であれこれ調べられるくらいにはイネちゃんは勇者の力を制御できるようになっているのである。
……まぁ自信満々に書いてるけど、実際それをやってくれてるのはイーアなので役割分担して勇者の力を運用していた成果の一つなんだけどね。
ともあれそういう経緯で空飛ぶメタルタコの1匹をイネちゃんの制御下において、他のタコを攻撃させると状況は一気に好転する。
「操ったのか……さすがは勇者殿」
「勇者なら誰でもじゃないからね?」
今回はたまたまイネちゃんとしてはとても相性がいい相手であったというだけだし、ことさら自慢するようなことでもないのでちょっと困惑してしまう。
むしろ相手が金属であればこそ、イネちゃんにしかできないこととも言えそうだからね、これもちょっとした応用だとか言ってココロさんとヒヒノさんならやっちゃいそうっていう謎の信頼感があったりするけども、流石に能力としては機械を操作をするとかの方向には使えない……よね?
イネちゃんがタコを1匹……いや1機って言ったほうがいいのかな、まぁその1機を操ったことで他のタコの動きも変わり、イネちゃんが操ったタコを一斉に攻撃し始める。
「同士打ちができるのならばそれが1番楽ですかな」
「数の問題があるから、減らす努力はして欲しいかな。それとこいつらは操った時に探知もしたけど無人機だから遠慮しないでいいよ」
生体反応がないイコール無人機というのも早計かなとは思ったものの、明確に殺意たっぷりな武器をバシバシ撃ちまくっている以上は無力化する必要があるし、おじいちゃんハルピーの力でどれだけ対処できるのかって疑念もあったので最初から本気をだして、それでも無理そうであるのなら戻って一度森の外にいるココロさんかヒヒノさんを連れてきてもらった方が今後の展開敵に有利になるはず。
「承知いたした。それでは……ホォ!」
あ、今の気合の声はフクロウっぽい。
『それは確かに思ったけど、こっちも森を傷つけないためにビームが使えないんだから近接戦闘に移る!』
「実弾……でもちょっと危ないか」
火力を出そうとすればむしろビーム以上に慎重な取り扱いをしないといけなくなるからね、特にアンチマテリアルレールキャノンとか射線軸を丸々削り取るような威力になるから、周囲のものを傷つけてはいけないという条件だとなかなか使いにくい。
最も、そういう条件である以上は人型兵器を沈黙させるだけの電流を叩きつけるスタンナックルだって、目の前のタコを沈黙させるにはそれ相応の電力、電圧が必要になることになるので今回は使えないわけだけど。
「なんか久しぶりな気がするな……」
『普段使わないし、近接のタイミングでもスタンナックルとバーストナックル作っちゃったからでしょ』
イーアとそんな会話をしながら腰の革鞘に収めてあるショートソードを抜いて赤熱とかではなく超高速で振動させる。
「こういう武器ってなんて言うんだっけ……」
『高周波とかそんな感じだった気がするけど、斬れればいいでしょ』
「それもそうか」
ショートソードの刃も勇者の力で薄くても折れないものに変更してあるし、何よりいたたきつぶすような鋳物な構造から、日本刀のように鍛錬したような形にしてあるので完全に切断することに特化している。
タコの金属の分子結合も把握済みなので多少ならこちらの武器の硬度が負けていても余裕で切断することができるし、なんだったらショートソードに吸収する形で切り札の1つである自立型ビーム兵器の燃料に変換しちゃってもいいからね。
ともあれおじいちゃんも掴んでは急上昇急降下リリースでリズムよく地面に叩きつける形の攻撃で安定しているし……イネちゃんが操ったタコの動きで相手が飛び道具中心だってことを把握出来ていたみたいだし、よほどのことがなければこのまま丁寧に数を減らしていってくれるかな。
とはいえこんな悪い方向に流れてしまいそうなことを考えていないで、イネちゃんもタコ目掛けて距離を詰めてショートソードで邪魔な足を落としつつ体に当たる部分を切り裂いていく。
そうして残りのタコが3機になった時、それは起こってしまった。
「がっ」
という短いうめき声と共におじいちゃんハルピーが腕翼を切られて地面に落ちていた。
「大丈夫ですか!」
明らかに大丈夫じゃないことがわかっているのに、なんで第一声がそれだったのか……自分でもよくわからないけれどその単語が口から出ていたのだから仕方ない。
「すまぬ……」
おじいちゃんの方も当然余裕がないので謝罪の言葉だけが返ってきて……そこでようやく視界にタコ足からビームソードを展開しているタコがが更なる追撃のためにおじいちゃん目掛けてそのビームソード足を振りかぶっていた。
『間に合え!』
他のタコも同様にビームソードの展開をしていたのも見えたので、イネちゃんはそちらの撃破に集中して、代わりにイーアがおじいちゃんを救うためにマントに貼り付けるような形でとっていたので、そのいくつかをおじいちゃんへと向けて飛ばした。
『あっちのビーム縮退率はわかってるし、近接兵装なら物理でも防げるはず!』
確かにアングロサン系のビームならそうだけど……と思いながらも、こっちはこっちでタコを複数相手にしているし、おじいちゃんの方へはイーアに全部任せてこっちを速攻で終わらせたいのだけれども……どうにもイネちゃん、こっちのタコもビームソードを展開しているようにしか見えない。
「イーアおじいちゃんは全部任せた!」
『任されたけど……防御の方が!』
「防御優先でやるから大丈夫!おじいちゃん優先!」
勇者の力で、更に言えば自立型の空を飛ぶあの兵器に関してはイーアと連携して初めて本領を発揮できるくらいに集中しないといけないので状況としてはかなりまずい。
「くそ……予定が思いっきり狂ってる!」
援軍を呼びに行ってもらう予定だったおじいちゃんが真っ先にやられちゃったわけで……そして悪い流れとしてはイネちゃんがガッツリこの場でおじいちゃんを守りながらタコを殲滅しなきゃいけないのは流石にきっつい。
ビームソード16本を回避や受け止めながらおじいちゃん側のビームソードも8本、イーアが止めてくれる前提で戦い続けなきゃいけないわけで……これ、普通なら無茶ぶりされてるって話じゃないよね。
しかも悪い流れができてからこちらのショートソードでの攻撃が弾かれることもあるから、数を減らすのが戦闘開始時点よりも手こずっているし……。
「あぁもう!」
森を傷つけてはいけないって条件がなければこっちもビーム使うなりして対処できるわけで……使えるものが減ると途端に戦いにくくなるっていうのがイネちゃんの弱点かなぁおじいちゃんを助けられなかったら後悔が凄くなりそう……。
「イーア!とにかくおじいちゃん優先、なんとしても助けるよ!」
『わかってる!でも……まずいよ!』
イーアが叫んだと同時に、今戦っているタコの後方から追加のタコが5機くらいに見えてしまい、流石に周囲への影響を考えている場合じゃなくなったと思ったタイミングで……。
「かの者に裁きを!」
聞き覚えのある声が響くと同時に、全てのタコの頭上からかなり強力な雷撃が降り注いだ。
「トーリス!」
「おう!ナイスだウェルミス!」
極大の剣を持った青年が飛び込む形で追加のタコを叩き潰してから、イネちゃんに向かって。
「今日はロロと一緒じゃねぇのか、勇者様よ!」
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