第111話 ハルピーの里
「今日はよろしくッスー」
「ふむ、同胞がいるだろうことは把握していたが……貴様はハヤブサか」
「そうなんッスかね、私はあまりそのへんを気にしたことがなかったッス」
「我らフクロウ種としては餌を取り合い、場合によっては捕食される相手となりうるからな……本能からくる恐怖心というのはなかなかに堪える」
「渡り鳥種のハルピーさんたちは別にそういうことなかったッスけど……」
「およそ楽天的な者が多かったのだろうし、お主も楽天的なようだ、波長が非常に合ったのだろうさ……。さて、それではそちらの方々が森の生態調査を行いたいと申し出た者たちだな」
「はい、私はジャクリーン・フルール、調査隊のリーダーをさせていただいております」
「こちらとて調査をしてくれるのであれば助かる。火吹きトカゲの1件で同胞にも被害が出ておるからなかなか広域に渡り把握することが出来んかったからな」
「そのことですが、私たちはあくまで先遣隊でして、本隊は後日ヌーリエ教会から派遣される手はずとなっています。私たちの行う調査というのは……」
なんというか、一応戦闘になった場合ってことも含めて森組のフルメンバー4人で里まで来たけれど、イネちゃん必要だった?って感じにサクサクお話が進んでる。
でもまぁ、来たことで新事実がわかったからイネちゃんとしてはいいか、キュミラさん、あのチキンっぷりでハヤブサだったんだ……流石に羽の毛並みとかで判断できるほどイネちゃん鳥類に詳しくなかったこともあって今まで猛禽類としか理解していなかったからちょっと驚いた。
なんか以前別の種族だーとか聞いたような気もするけれど、キュミラさん本人が曖昧な返答しているから今度昔の日記読み直すかなぁ……機会があればだけど。
そしてこの里の人たちはフクロウ種……フクロウの特徴は夜行性で首が270度回転できるんだったっけか、なんというか目の前でお話してくれているおじいちゃんの首がそんな感じに回るのか気になって会話に集中できない。
とりあえず里の様子は特に柵とかはなく、木の上に簡単な雨避けや風避けが作られている程度の寝床だけで、ハルピーの人たちの生活をキュミラさん以外で初めて間近に見るしで、かなり興味があちこちに分散してしまう。
「この辺りはノオ様の加護もそれほどない。故に我らも元々の身体能力のみで慎ましく暮らしていたのだが……ゴブリン、大型動物共の暴走、人間たちのいざこざ、そして先日の火吹きトカゲと立て続けに起きてしまっては食べるにも切迫しつつあってな」
「ということは小動物も減っているので?」
「残っていたのはシックルラビット程度のものじゃな。あやつらなら暴れまわっておった大型動物に負けるようなものでもなし……だが火吹きトカゲの件で連中も大型のコミュニティをいくつか作り守りに入ったことで狩りが思うように行かなかったのが実状じゃよ」
「そうですか……ということは森全体で動物は減っている、と判断して問題なさそうですね」
「その前提で調査して頂ければ、幸いじゃて」
「ヌーリエ教会の本隊が来た後は、場合によっては多少の間伐を行って皆さんも食べることができる野菜を作る田畑と、ハルピーの方だけで運用できる手段と手法も教えていただけるかと思います」
「我らノオ様の民の信心も尊重して頂き、ヌーリエ様にも感謝を」
「それは直接教会の方へ。それでは私たち先遣隊が聞きたいことですが……」
「概ねの分布じゃったな。儂が把握している範囲になるが……」
「はい、問題ありません。ご協力感謝します」
それにしても……今まで会ったどのハルピーとも違って、このおじいちゃんハルピーはかなり落ち着きがある感じで違和感を感じてしまう。
まぁ確かフクロウって森の賢者って呼ばれてるって聞いたことがあるし、そう考えればフクロウ種のハルピーの人たちは他のハルピーの人よりも思慮深かったり、知識を蓄えられるのかもしれない。
ともあれこれで概ねイネちゃんたちのお仕事は完了したも同然かな、時間がかかりそうだった分布の把握をこの森に住んでいるハルピーの人の手助けを借りてすぐに終わりそうだし、イネちゃんたちがやらないといけないことはアングロサンからの駐留部隊の人たちの護衛くらいになるはず、はず。
「む……お客人、少々森が騒がしくなった。大丈夫だとは思うが木の上に1度避難なさることを進めるが……」
「騒がしく?」
「何かが暴れているか、森に敬意を払わぬ馬鹿者が森に浸入しているか……どちらにしろ動物たちは逃げよる。特に安全なのは我らの里じゃからな、弱い動物でも群れで走り、その雪崩に巻き込まれれば人の子はひとたまりもあるまい」
「そうですか……イネさんも登ります?」
「まぁ……即応するのにイネちゃんは下の方がいいと思うけどさ、大丈夫だろうし。それよりもロロさんが登れるか心配かな、登れても枝の方が持つかわからないし」
イネちゃんがそう聞くと、ジャクリーンさんとロロさんはイネちゃんの顔を見てにっこりと笑う。
あぁうん、まぁイネちゃんなら枝に登る以外の手段を用意できるけどさ、うん。
「じゃあ簡単に作っちゃうから動かないでね」
「ぬ……この気配は……」
おじいちゃんが呟いたのを聞きながらも勇者の力で2人の足元をせり上げて避難させつつ、小動物ができるだけぶつからないように木に接するように移動させる。
「なる程……ヌーリエ様に選ばれた勇者であったか。だができれば逃げてくるものが傷つくようなことは……」
「避けたいけどね、ただ避けようがない状態だったら困るから約束はできないよ」
「感謝する」
感謝されることもないとは思うんだけど……とりあえず探知しながら木の陰に隠れる形にしてできるだけ動物がイネちゃんに突撃しちゃわないように退避しておく。
動物の群れに連続して突撃されたとして、イネちゃんは無事でもぶつかった動物の方が無事ではすまないだろうし、できれば森の最初から存在している障害物である木に密着してやり過ごす方が無難なんだよね……まぁおじいちゃんの言葉を考えるとちょっと平常とは違うってこともあってそれも確実じゃないだろうから、場合によってはイネちゃんも上か下に避けてあげないといけない。
『もう来るから今は待機して……』
「わかってるって」
イーアの言葉に返事をしたその時、地響きと共に動物たちがハルピーの里の領域に浸入してきた。
「どれもが生存の本能に従い逃げてきておるな……」
「ちゃんと木は避けてくれてるね……」
「逃げる場所に天敵となりうるハルピーの里を選ぶくらいッスから、それだけ生きたいってことなんじゃないッスかね」
キュミラさんが完全に他人事だ。
いや確かに他人事なのは間違いないのだけれど、森の動物が一斉に逃げ出した理由とかそういうのを少しは考えようと言いたくなるものの、イネちゃんは今探知を動物が逃げてきた方向に集中させて展開しつつ、万が一ぶつかられても大丈夫なように体の固定と防御力の向上をしながらロロさんとジャクリーンさんの垂直避難までしているのでちょっと処理がツッコミにまで回せない。
「ぬ……生物ではない何かの気配を感じた。ヌーリエ様の勇者殿、東方向に何かがある……」
「何かって言われましても……」
「里に入られるわけにはいかんな……ついてこれたらついてきてくだされ」
逃げてくる動物の量が減り始めたタイミングでおじいちゃんはそう言って森の木々の背丈よりも低い低空を飛びながらイネちゃんに向かって言ってきた。
「里ってどのくらいの広さなんです?」
「ダーズという人里の1区画程度じゃよ」
即答でそう返ってきたってことは、このおじいちゃんはダーズに行ったことがあるのかな、ダーズの1区画となるとおよそで1km四方くらいの大きさか……中心に陣取って射線さえ通れば狙撃銃で対処できなくはない範囲だけど、生物じゃない何かか……。
イネちゃんの探知には引っかかっていないということは、恐らく空を飛んでいるのだろうことはわかる、わかるのだけれど……。
『むしろそれしかわからないでしょ……おじいちゃんに無茶させられないから出たとこ勝負でやるしかないって』
「身も蓋もないけど……」
イーアの言うとおりなので、遅れて逃げてきている動物に注意しながらおじいちゃんの後に続いて東へと出発……あぁロロさんとジャクリーンさんはもう動物に轢かれることもないだろうと降ろした後に出発したよ。
「ジャクリーンさんは他のハルピーの人にお話聞いて情報をまとめておいて!」
「はい、イネさんもお気をつけて!」
ここ最近のイネちゃんが体験することになったあれこれを考えると、今向かう先にいるヤツも絶対に面倒な奴な予感しかしないながらも、ジャクリーンさんの声に見送られる形でイネちゃんは東へと向かったのであった。
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