第110話 双子勇者とのお話

 キュミラさんのおかげで予定よりもかなり早い段階でシックルラビットの分布が分かり、翌日の予定まで決まったのでイネちゃんたちは凄く落ち着きながらシックルラビットの香草焼きに舌鼓を打っていた。

「森組はやはりうまくいったようですね」

「私のおかげッスよ!……それにしても焼いたりしてもうまいッスね」

「1番の功労者ですからたっぷり食べていいですよ」

「もう結構食べたッスよ……」

 肉食寄りの雑食であるシックルラビットの味は非常に淡白で、筋肉の部分が体のほとんどを占めていることもあり噛みごたえ抜群のちょっと硬いお肉なんだけれど、これが今日リリアたちが草原の方で狼の動きを確認しながら植物の分布も確認をしていたときに採取した野生の香辛料がよく馴染んでいてほどよく口の中でピリリといった刺激が来るため蒸しただけの鳥ササミとは違ってこれだけで食が進む。

「草原の方はどんな感じだったの?」

「至って平和って感じだったかな、狼も数がいるわけでもないし……あぁでもあまり野生では見ない植物は多い気がしたかな、これにも使ってる香草って大陸だと原産地がない栽培植物だし」

「原産地がない?」

「うん、10年前に地球から持ち込まれたものらしくってね」

「この辺りはその10年前に貴族を蹂躙していた地球の軍が持っていたものが発芽したものですよ。しかしそうなると植物に関しても詳しく調査をする必要が出てきましたね……元々予定にはありましたが、それほど大きく変わっていないものとタカをくくっていたのが間違いと証明されただけプラスだと思いましょう」

「私が精霊に聞いてみた感じだと、在来種と共生できてるみたいだからそこまで気にする必要はないと思います」

 イネちゃんの質問にはリリアが、そしてリリアの説明にジャクリーンさんが補足しつつ更にミミルさんが情報を行進した。

 雑談の流れで情報を整理できてるのは凄くいいよね、楽が出来ている感じがする。

「あー皆もう食べちゃってるんだ。もうあの人たちにお料理運んでる時も匂いだけで凄くお腹の虫が合唱しちゃって大変だったよ」

「今はティラーさんとロロさんが護衛を変わって頂けたので、私たちにももらえますかリリア」

 ヒヒノさんとココロさんが駐留部隊の人たちの配膳から戻ってきて食事を始める。

「明日はハルピーの里ですか……そちらはキュミラさんだけという配置にしてもいいと思いますが」

「ダメッスね、あの里の人ら結構縄張り意識が強かったッスから、嫌がらせ受けかねないッス。デテイケーデテイケーって脳内で囁いてくるくらいだと思うッスけど」

 嫌がらせ受けるんだ……あ、ちなみにハルピー同士は共感というか共振みたいな能力があって、声による意思疎通が必要ないらしいので脳内ってことなんだと思う。

 思うっていうのもイネちゃんはその意思疎通を体験したことないからね、体験できる気もしないからまぁ、近い感じで言えばイネちゃんがイーアと会話している時と同じ感じなんだと勝手に解釈している。

「排他的なのは珍しいですね、猛禽類系ハルピーの方でも温和な性格の方が多い印象でしたが……」

「ここ最近ゴブリンやら火吹きトカゲやらで大変だったらしいッスからねぇ、時間があれば大丈夫だと思うッスけど、流石に攻撃されたりはしないとは思うッスよ」

「食べ物は余り気味と言っていいほどですからね……小さい区画ですら20匹ほどのシックルラビットというのは自然に推移した可能性はなくはないと思いますが、流石に10年程度で起こる変化とは考えにくいですし、現地の方にお話が聞ければいいのですが」

 現地の人から話を聞ければ調査の過程をいくつかすっとばすことができるし、何よりかなり広範囲の情報を詳細ではないものの、分布という点においてはかなり正確なものが得られると思う。

「よし、明日の早朝、私が先行して一度話をしてきましょう」

「いいんですかココロさん」

「他に差し迫っている案件がありませんから。それに客人に手ほどきをしたところ皆さんすぐにばててしまわれたので、明日はヒヒノによる大陸の常識などを講義してもらう予定ですから大丈夫ですよ」

「ココロおねぇちゃんはもうちょっと手加減してあげるべきだと思ったよ。やる気まんまんだった4人を一息でやっちゃうのは流石に訓練とかじゃないからね」

「で、ですが私が師匠に最初に教えられたやり方をやっただけですよ!」

「ササヤおばちゃんのやり方は他の人じゃついていけないと思う」

 ココロさん以外の全員が首を縦に振る。

 リリアも含めてササヤさんの教え方に関しては満場一致する辺り、ココロさんはほかの人とはちょっとだけずれてるところがあるよね、ササヤさんのやり方で慣れちゃってるのもあるのかもしれないけど。

「むぅ、ヒヒノだけでなくリリアまでですか……わかりました、可愛い妹たちに言われてはそうせざるをえません」

 そしてこのシスコンっぷりである。

 平和なやり取りのまま駐留部隊の人たちが食事に関してあれこれ言った程度の出来事しかおきずに就寝したのでこのまま翌日、丁度イネちゃんが見張りをするために起きた辺りでココロさんが森に向かって出立した。

「こんな時間から行くんです?」

「はい、猛禽類系のハルピーの方でしたら夜行性の可能性も十二分にありえますので。この時間から向かえば丁度寝る前くらいには到着できるはずですから、あぁそれと私が戻るまでの間、イネさんには……」

「待機ですよね、わかってます」

「ありがとうございます。では、行ってきますね」

 ココロさんはそれだけ言って走って森の中へと入っていった。

 森まで結構な距離あったはずなんだけど……ココロさんの走る速度がもう人間の限界を突破しちゃってるよなぁ。

「いやぁココロおねぇちゃんはあれで勇者の力とかでブーストされてないんだよ」

「うわ!」

「しー、まだ皆寝てるからね」

「いきなり話しかけられたらこうなりますって…………ココロさんがアレでブーストされてない?」

「うん、ココロおねぇちゃんの勇者の力って調和とか調整とか、何かを制御したり合わせたりするだけだからね。そりゃ応用して色々と補強はしているけれど、ココロおねぇちゃんは私の自慢の姉で居たいって気持ちだけでササヤおばちゃんの修行をこなしていたから」

「なんでそんな話を?」

「今回の戦いはまだ大丈夫かもだけど、もっと大きい規模の戦いになった場合は私とイネちゃんで対応しよってことを言いたくてね。その理由を先に言っただけ」

「でもココロさんの強さなら……」

「確かにココロおねぇちゃんは強いけど、勇者の力って点では戦闘向けじゃないからね。あの強さはあくまでココロおねぇちゃんの努力の結果だから」

 努力でササヤさん並の強さになってる時点で、それ自体が特殊能力か何かなんじゃないかと思ってしまうけれど……元々大陸の人なら努力すればしただけ強くなったりするみたいだし、ありえない話ではないのかな。

「私は元々身体が弱かったから、勇者の力に目覚めるまではずっとココロおねぇちゃんに守って貰ってたし、目覚めた後だってずっとココロおねぇちゃんと一緒にいて見てたから……ま、私もココロおねぇちゃんを守りたいってだけなんだけどね」

「えーっと……要約するとヒヒノさんはより強い侵略者が現れた場合、ココロさんに無理な訓練とかをさせたくないってことです?」

「そういう部分もあるかな、8くらいで」

 それは大半というのでは。

 それにしてもココロさんのことを離すヒヒノさんは本当に楽しそうで……仲がいい双子……とここでイネちゃんはとあることが気になった。

「そういえば地球暮らしの方が長かったイネちゃんとしては1つ聞きたいことがあるんですが」

「なーに?」

「大陸だと双子ってどういう感じに捉えられるんですかね」

 地球とかだと忌子とか色々と疎まれる理由になったりするからなぁ。

「むしろ大歓迎って感じかな、ヌーリエ様に祝福されたからより多くの子が生まれたとか、祝福されてるから子孫繁栄五穀豊穣の神子みこだとか……ものすごくちやほやされるよ。その上私たちはヌーリエ教会の司祭長の娘で勇者にも選ばれちゃったわけだからさ」

「大々的にお祭りしていたんだろうなって想像できる気がする……」

 何日もかけてお祭り騒ぎしてそうな光景がすぐに思い浮かんでくる。

「いや、むしろ生まれた時は厳かだったらしいよ。むしろ騒ぐよりも皆大切な人と一緒にご飯を食べなさいって神官に通達したらしいし。ヌーリエ様が1番大切にしてって言うのはまずは家族だからね、神子みこが生まれたのなら尚更家族と過ごせってね」

「でも……それはそれで大変になるんじゃ」

「大半がシック在住で家族もまとめて教会で過ごしてるからそれほど問題にならなかったんじゃないかな、そこまでは知らないけど」

「基本的に家族という枠にはまらない方々が対処したと聞いていますよ。ただいま戻りました」

「うわ!?」

「おかえりー、どうだった?」

「はい、里の方の言葉は『把握している範囲を教えるのは構わないが、できればあまりシックルラビットを狩りすぎないようにしてくれ』とのことでしたね」

「ココロさんが聞いてきたんじゃないんだ……」

「流石に半日はかかりそうでしたから。調査隊の責任者はジャクリーンさんですが、監督責任を持っているのは私になりますからね、客人の方々の安全を保証するために私とヒヒノがここにいるのですから」

 ということは……イネちゃんが行くことになりそうだ。

 まぁ元々予定通りと言えばそうだから別にいいんだけど、できるのならば色々と過程を省けるのであればそれに越したことはないくらいに時間が区切られているからなぁ……もう半分過ぎてるし。

 こうして調査を初めてから4日目、イネちゃんはハルピーの里へと向かうことになったのであった。

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