第107話 勇者の仕事と説明

「本当、ココロさん絶対あそこにいること知ってたでしょ……」

「さぁ、なんのことでしょうか」

 イネちゃんのビームは想定通り火吹きトカゲを消滅させてから、火吹きトカゲの母親と子供の2匹をミミルさんの精霊魔法で意思疎通をしながら連れて戻った時のイネちゃんの第一声である。

 ココロさんはココロさんですっとぼけてるし……。

「ココロおねぇちゃん、ちゃんと教えてあげないと。ごめんねイネちゃん、ササヤおばちゃんが大陸の勇者なら将来必ず体験することだから、早めにって言ってね。火吹きトカゲの方も自分たちが来ちゃった時に食い散らかしちゃった償いをしたいってことだったから、今回みたいな形にしてもらったんだよ」

「……まぁ、わからないでもないですし、そこは別にいいですよ。でもそういうことならちゃんとあの2匹はヌーリエ教会の方で責任を持ってくださいね。……後ヨシュアさんのケアもお願いします」

「うん、わかったよ。ココロおねぇちゃんもササヤおばちゃんからの指令だからって別に隠すことないんだからさ、ちゃんと教えてあげようよ」

「2回もですか……本来なら自分で意図に気づくべき事項なのですが……」

「いやイネちゃん気づいてたよね」

「まぁ杞憂でしたから……すみません」

 普段の言動は子供っぽいけれど、こういう状況になったらヒヒノさんの方が主導権握るんだなぁ……仲のいい双子なのはわかっていたけど、役割分担もきっちり出来ててなんというか……。

「いや私はお父さん役ではないですからね?」

「え!?」

 ココロさんまさか思考を読んだ!?

「顔に出てます。夢魔の方々が使われるようなことを行わなくともわかります」

「そんなにですか……」

「結構わかりやすいですよ。良くも悪くも裏表が少ない性格と言えば伝わりますかね……それではヒヒノ、火吹きトカゲの受け渡しのための連絡は任せます。私はイネさんがあらかじめ指示してくださっていたおけげで資材の方も最低限は確保できていますし簡単に陣地を作ってしまいますので」

「はーい」

 むぅ……イネちゃんそんなわかりやすいんだろうか。

 裏表が少ないっていうのもピンとこないんだけど……まぁココロさんから見てってことだし、あまり気にしない方がいいか。

「はい、それでは皆さん資材がきましたので早めに作ってしまいましょう。お客人の方々はなるべく火吹きトカゲには近づかないようにして、車内で待機して頂いても構わないですが……見学されますか?」

「それよりもその少女に聞きたいことがある、質問は許されるか?」

 中佐さんが額に汗を浮かばせながら恐る恐ると言った感じで聞いてきた。

「イネさん次第ですが……」

「いや答えられることなら別にいいけど。あまりにプライベートなこと聞かれるのは流石に嫌だし」

「さっきのビーム……いやあれはビームだったのか?ドラゴンのように見えた巨大生物を蒸発させるには我々の技術を持ってしても専用の装備が必要になる。あれは……象やクジラと比べるとどのくらいの大きさか教えてもらってもいいか」

 なんかいっぱい聞かれたな……。

「どれから答えようか……まぁとりあえず間違いの訂正から、あれはドラゴンじゃなくて火吹きトカゲ。この世界のドラゴンは知性が高く人語を解し操る存在のことを指すんだよ。それとあのビームは視覚効果で言えば抜群だと思っただけだよ、あの火吹きトカゲに頼まれてあの子にこっちの力を見せなきゃいけなかったから」

「いや……どうやって撃った。相応の電力と機構が必要なものを、個人携行型でなし得るほどの科学技術はこの世界にはないはずだが……」

 あー……そういう知りたいだったか。

 いやまぁ当然だけどさ、万が一にもこの世界の人間が全員あのビームを使えるとなるとアングロサン側に勝ち目なんてものが完全に消滅することになるわけだし。

「そこは伏せさせてもらってもいいですかね」

「別に話しちゃってもいいよ、イネちゃん。イネちゃんは防衛で心理戦のつもりだろうけれど、今回はあまり考えないでいいよ」

「いいよって……ヒヒノさん、大丈夫なんです?」

「うん。ようは何かあったら反撃可能で、それはあちらにとっても一撃必殺だってわかってもらえれば、それで大丈夫じゃない?」

 抑止力の考えか。

「まぁ……ヒヒノさんがそう言うなら……」

「あれはイネさんの勇者の力による副産物ですよ」

 ってココロさんが説明しちゃうんだ……別にいいけど。

「勇者……ますますファンタジー、創作の世界だな」

「私たちにとっては現実で、今では皆さんにもそうではないのですか」

「いえ……確かにその通りです。実際我々は一度そちらのその力に敗北しているわけですからね」

 中佐さんが会話してるから結構すんなり話が進んでる……というよりは他の人が皆萎縮気味になっているだけで、中佐さんが隊長として代表して聞いているだけなのか。

「そちらがあのデカ物を人里に降ろしたことへの意趣返しであると思って頂ければ、問題ありませんよ」

「……意図は理解した。だがこれ以降はこちらを威圧、威嚇するようなことはしないと思っていいのか判断しかねる」

「そこは保証いたしますよ、そのために私とヒヒノがこの場に来ているのですから。あぁそれと……武器術の指南もしろと言われていましたね」

「それも遠慮しておきたいというのが部隊全体での心境なのだが……」

「えっと……ちょっと今の流れだとイネちゃん暴走したみたいになってるんですが……」

「おっとすみません、私はどうにも言葉選びが苦手なもので。そうですね、先ほどのイネさんがビームをを使った流れですが……私の師匠、築防ササヤからの指示です。まぁそちらへの意趣返しの意味もありましたが、大部分はイネさんに勇者としての心構えを教えるための、教育としての側面の方が強かったわけです」

「ササヤおばちゃんは本当、なんでもかんでも一緒に済ませようとしちゃうからこんな感じになっちゃうんだよねー」

「失礼を承知で聞くが……そのササヤという方は女性?なのだろうか?」

「女性ですよ。あそこで炊事しているリリアの母親で、既にあなた方アングロサンの方々と交渉したムーンラビット司祭の娘に当たる方です」

 ココロさんの説明を聞いた中佐さんは、思い出すような仕草をしてからリリアを見て。

「……本当に血が繋がっているのか?」

「むしろリリアの方がムーンラビット様に近しい力を持っていますよ。師匠はなんというか……それらの能力を全て身体能力に転化したような方ですので。この場にいる全員が本気になってようやく対等な立ち位置になれるかどうかではないでしょうか」

「生身でビームを撃てる人間がいてもなのか……」

「むしろ素手で掴んで投げ返すのではないでしょうか。そのようなことをしても不思議ではないのが師匠です」

「……よし、わかった。実際にこの目で見なければあまり納得できたものではないが、こちらの常識で考えていては必ず足元が救われることになるであろうことは理解した。部下だけではなく本国にそう通信をしても?」

「構いませんが、正気を失ったと思われる可能性があるのではないでしょうか」

「否定はしない。だがそれなら既に帰還している艦長立ちも似たような立場になっているだろうからな、艦長に新事実として先ほどのビームの映像も含めて転送を行う」

「物的証拠ですか。今のあなた方には動画等を改ざんするだけの設備や装備は持ち合わせていたりは?」

「いや、持っていない。むしろそのような装備はこの世界の実情を記録する際に邪魔になると判断して全て艦に置いてきたからな」

「わかりました。ですが万が一あなたが戻れなくなるような事態になった場合は、私の説明やイネさんにビームを撃たせた私の責任になりますので、身元の引受はお任せください……先に言っておきますが、婚姻等のことではありませんのであしからず」

「私は妻子持ちです、ご安心を。それに軍からは問題視されるかもしれませんが、娯楽の提供として民間からは好まれるでしょう。ですので転職には困ることはないでしょうからお心遣いだけ頂いておきます」

 ココロさんも中佐さんも、どちらも腰が低めな言葉選びだからなんというか……イネちゃんが場違い感を感じてしまう。

「うん、話がまとまったのなら早く部下の人たちを安心させてきてあげて。怯えた感じの視線を向けられ続けるのってあまり好きじゃないし、イネちゃんも大陸の勇者のお仕事を1つこなしただけなんだしさ」

 ヒヒノさんはよく硬い空気の中で軽い口調で割り込めるよね……いや性格だろうってことは理解できるし、なんだかんだでヌーリエ教会の司祭長の娘ってことで場馴れもしているかもしれないしね。

「わかった。説明、感謝します」

「いえ、若輩者による拙い説明で申し訳ありませんでした」

 そしてココロさんは硬い対応である。

 まぁ言葉自体はスラスラ出ているし、思考するような間もないからヒヒノさんの姉ということもあってよりそう言った教育を受けていたのかもしれないか。

 中佐さんが小走りで戻っていったのを見送ってから、ココロさんは改めてこう言った。

「さて、少々予定より遅れていますね……ヒヒノは造成の指示を、私は少し追加で木材を取りに行ってきます」

「はーい。よーし、それじゃあちゃっちゃと基礎を作っちゃおうか」

 基礎?とヒヒノさんの言葉に疑問符をつけてしまったけれど、その意味はこのあとすぐに理解することとなった。

 ココロさんが超高速で材木を取り、加工して釘無しでの簡易的な小屋を1時間程度で建ててしまったからね、うん……もうイネちゃんが勇者の力で作っちゃってもよかったんじゃないかって思っちゃったよね。

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