第23話 新たな異世界人
「いやぁ災難でしたね、本来ならあんなところで吹雪なんて起きないんですが」
「ジャクリーンさんは何も感じなかった?」
「何もって……そりゃぁまだカガイとヒルダの中間地点であんな猛吹雪なんて気象観測が行われるようになってから始めてのことですから、思うところはありますが……」
なるほど、大陸で普遍的に使われる魔法とかへの阻害効果はほぼほぼなかったのか。
それに3人は吹雪が本格的になる前にヌーカベ車に避難できたらしく、音で酷いという認識でしかなかったらしい。
「もう……大変だったんだから」
「正直、外部的にイネちゃんの勇者の力やリリアの魔法が阻害されるっていうのがちょっとね」
「は!?」
イネちゃんの直球どストレートな言葉にジャクリーンさんは裏声みたいな変な声を出した。
「あ、だから……ちょっと、動き……難かった……」
「ロロさんは動き自体がちょっと重くなったんだ」
「うん……ロロ、ちょっと……魔法、使ってる……から」
それは地味に初耳なんだけど。
しかも普通の魔法なら阻害されないっぽいのは一応確認してたからね、それだけにロロさんの言葉は結構驚きになった。
「ウェルミス……頼んで、鎧、ノオ様と……ヌーリエ様の、加護を……両方、入れてる……から」
「あぁ、普通の魔法じゃなかったんだ」
やはり普通じゃない魔法や力が阻害されていたということか、となると少しだけ安心に変わりつつも、イネちゃんたちのパーティーだとまともにいつもどおりの力を発揮できるのはあの状況ならという文言が加わるもののジャクリーンさんとキュミラさんの2人だけということになる。
最も、リリアが本気を出せば問題なかったことを考えれば普段よりも消耗するってだけでイネちゃんも問題はないのだろうけれど、そもそも降雪地域ということもあってイネちゃんが力を行使することへのハードルはちょっとだけ上がっていたからなぁ、そういう点においてはかなり面倒な事態ということもできてしまうけれど……。
「い、いやいや……ってことは先ほどの吹雪って自然のものじゃなかったってことですか?」
「イネちゃんはそう考えてるかな。何より既に積もっていた雪が遊んでいたときとは違って掘ることが不可能になってたからさ、何かあると思うよ」
少なくとも、イネちゃん本人にとっては自分が勇者の力に頼りきりな状況だったっていうのを自覚させられたっていう事実は割と重大だったから、より強くそう感じているだけなのかもしれないけれど……既に作っていた空想兵器が普通に使えた辺り予め作っておけば問題なかったからこそ、やっぱりそう思わざるを得ない。
最も、イネちゃんのそんな思いなんてのはあまり重要じゃなくて、それこそ皆が守れるのならそんな力に頼りきりになるのだって結果的に確実に守れるのであれば頼るべきだからいいのだけれど、それでお父さんたちから学んだ部分が疎かになっていたのはちょっと考えるべきである。
「でも、なんとかなるんッスよね。実際イネさんとリリアさんは抜け出したわけッスし」
「かなりの力技だったけどね」
1度雲の上まで出てビームでその雲を吹き飛ばしただけだからね、うん。
でもイネちゃんはその時ちゃんと見ていたし、リリアもそのことに対しては流石に違和感を感じたから確実だとは思う。
雲を吹き飛ばして上空に雪を降らせる要因がなくなった後5分くらい吹雪が続いていたんだよね、そうなればもう完全にあれは自然現象ではなく、誰かが作為的に引き起こした超常現象であるということ。
そうなるとやっぱり最初の方に行き当った疑問、イネちゃんたちの能力の性質や特性を理解している人物がいるということになるわけだけれど……その人がただ単にイネちゃんたちを試しただけなのか、悪意を持って攻撃してきたのかなんてよくわからないからね、明らかに情報が足りてない。
「となればこれは教会以外にも報告が必要そうですね、勇者の力と夢魔の力を阻害する吹雪を起こす存在の可能性は報告しておかなければ混乱の元ですし、万が一それが悪意のある者の仕業であるのなら錬金術師の混乱と同等かそれ以上になる可能性すらあります」
「割と一大事じゃないッスか……一体何が起きているのかって少しは分かったりしないもの……と言っても絶対わからないッスよねぇ」
「まぁイネちゃんたちにできるのは起きたこと、体験したことをありのまま報告するだけだからね。何度も今回のようなことが起きればまだわからないけれど、わざわざ首を突っ込む必要はないし」
むしろ今回のようなことに関しては初動は行政側で動いてもらわないと今後の対策が取りにくいからね、交通インフラに関係してくることだから。
「でもとりあえずまずはヒルダまで行かないと報告もできな……」
リリアがそこで言葉を止めてヌーカベ車の外へと視線を向ける。
今イネちゃんは地面に接地していないけれど、相手がそれを隠そうともしていないからわかる、誰かが外にいる気配がする。
「気づかれたようですね、先ほどはこちらの事情でお力を試させていただいたことは大変申し訳ありませんでした。そのことについても説明させて頂ければと……お上がりしても構わないでしょうか」
「敵意がないというのならまずそこで待機していてください。こちらとしても1度襲われている以上は警戒を解くわけにはいきませんので」
「当然ですね……わかりました」
外からの声はそこで止まり、気配の方も止まっているのがわかったので一旦皆のところに戻り対応を相談する。
「さて、問題があちらから首を突っ込んで来たわけだけど、どうしようか」
「どうするも何も……取れる選択肢はあるんですか?」
「逆に聞くけれどジャクリーンさん、王侯貴族ならこういう場合はどうするの」
「そうですね……怪しい場合は拘束、そうでない場合は放置ですね」
「そういうこと、今回の場合相手側が犯人と言っている以上は事情聴取が必要になるわけで前者になるわけだけれど……」
「そこで悩む要素と言えば……もしかして街に連れて行くべきかどうかですか」
「うん、今回はカカラちゃんの時のように明らかに被害者って感じじゃなくて、むしろ加害者だし。そうなると拘束もがっちりしないといけないわけで……」
「イネ、そこは私の名前を使って、要望の形で拘束は最低限ってことにできないかな」
「してもいいけれど、万が一人が多い場所で暴れだした場合リリアが全責任を取ることになっちゃうから、できればそれは避けたいかな。確実にそうなるというわけじゃないけれどだからこそリスクは考えておきたいし」
「それなら……ロロが、やる」
そう言ってロロさんがまだ話が終わっていないにも関わらずドアを開けた。
「入って」
「ありがとうございます」
入ってきたのは少年と言っていい風貌と顔つきの人で、少し前に捕まえた動物使いのあの青年とは違ってかなり身なり、衣服の質が良さそうな印象を受ける。
「僕の名前はリメオンティウス、リオと呼んで頂ければ……」
「ストップ、こちらは君を拘束しなきゃいけない立場。OK?」
「おーけー……というのはどういう意味でしょうか。事前に調べた言語体系とは違うようなのですが……」
オーケーオーケー、つまりこの人はあの青年とは違って学習してきたってことね。
まぁその学習範囲が大陸限定というところがあるみたいで、イネちゃんとしてはそこがとーっても気になるところではあるけれど……今は重要じゃないか、そのへんは教会で専門の人たちがやってくれることだし。
「了解、了承を示す言葉。それを疑問形であなたに投げかけた。では実践、OK?」
「そういう言葉でしたか……わかりました、それで信用が得られるのでしたらいくらでも」
「信用は得られないけれど、現時点での敵意の有無に関しては判明するからありがたいかな」
よく勘違いする人がいるけれど、この手の自首のような感じで捕まるって信用なんて得られないんだよねぇ、こればかりは地球社会でも同じ。
今回の場合は明確に被害者がいるかどうかわからないからまだいいけれど、連続殺人とかの犯人だった場合……大陸の場合ゴブリンを大量にばら撒いた錬金術師のグワールが同じことをやった場合結局のところ罪は免れないからね。
で、今回の場合はイネちゃんたち以外に犠牲がいないという前提でなら厳重注意と世界常識の教育くらいで開放されるだろうし……多分。
「とりあえず簡単な拘束はさせてもらうよ、あなたの場合魔法、魔力的なモノが必要だからここでは場当たり的なものしかできないんで、今からすぐに近くの街まで行くよ。その上であなたへのお話は別の人に、専門の人に委ねさせてもらうけど……何か言いたいことはある?」
「いえ、私が攻撃をしたのは事実ですので。それに専門の方であるのでしたらそちらのほうがスムーズでしょうし構いません」
……想像以上にこちらの言い分を飲み続けるなこの人。
何か思うところがあってなんだろうけれど気味が悪くなってくる。
ともかくそれに関してはリリアが常に思考を監視してくれているし、よほど酷い嘘とかでなければ直近での問題には発展しないか……。
「じゃあリリア、とにかく今はヒルダに向かおうか。吹雪で予定日数がずれ込みそうだしちょっと急ぎ気味で」
「うん……わかった」
リリアにしては歯切れの悪い感じの返事だったけれど、イネちゃんはこの時気づけば良かったよねと思う展開が待っているとは……なんとなく想像はしていたけどさ、ここ最近ずっとこんな感じだし。
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