第30話 何も無い

決断をしたなら直ぐに行動に移すべきだ。

俺はすぐさま逃走に移る。

人々は既に広場を抜けて我先にと街の出口を目指して、アヌビスから離れて、出来るだけ遠くへ逃げようと走っている。

冒険者らしき集団が先頭だ。

普段から動いているだけあって流石に速い。


出口が見えた。

誰もが逃げ切れた、助かったと思った。俺もそうだ。


しかし、先頭を走る人々が足を止めた。

当然、列の後ろが詰まって動けなくなる。それでも自分だけは助かろうと後ろから人が押し寄せる。


「前で何があった!!」

「進むな、出れないんだ!!戻れ!!」


人の波の前方で建物に登った青年が声を張り上げていた。

局所に鉄の板を貼った簡素な鎧とショートソード、冒険者だ。青年が懸命に声を上げている。


「下がって。無いんだ、この先が!!何も無いんだ!!」

「ふざけんなっ!俺は出るぞ、報酬が良かったから参加したが割に合わねぇよ!」


青年の忠告を無視して騎士のような格好をしたスキンヘッドのおっさんが人を掻き分けて前へ走って行く。

見たことないし、派遣されてきた人だろうか?


「なっなんじゃコリャアッ!!」

「だから言ったでしょ!早く戻って」


スキンヘッドはそそくさと後方に退散して行った。

既に状況を把握した先頭集団は中継、後方に声をかけながら下がり始めている。


「しかし、無いって何だ?」


危険なのか?

だからこそ下がるんだよな。


俺は街の出口から中へ向かう人の波に逆らいながら、小さい身体を駆使して問題の場所へ向かう。


状況をちゃんと自分の目で見ておきたい。あとは、単なる好奇心だ。



着いた。

街の出口まであと十数歩というところに来た。


そこには、

青年が言ったとおり、何も無かった。

さっきまで見えていた風景が消えて、目の前には真っ黒な歪んだ空間が広がっている。

上も、下も、右も、左も。

ここは、俺の

この黒く歪んだ空間に会ったのは3度目だ。


「なぁ、アヌビスさんよぉ!お前が黒幕か?」


ーーとっ捕まえて、全部吐かせてやるよ!!


……今は勝てないけどな。

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