第26話 捜索開始

窓から差し込んだ陽を顔に受けて、俺は目を細める。


太陽は既に北東の半ばまで上っている。

上体を起こして時計を見ると正の10時を指していた。


「っつ、いつもより遅いな。寝過ごしたか」


ベットから出てリビングに向かう。

よく寝たからか、今日の調子は上々だ。


リビングに着くと、俺はいつも通り席に座る。


「あ、2人とも捜索中か」


いつもなら母さんが運んできてくれる朝食がないことで、両親が帰ってきていないことに気付いた。


腹が減っていたので俺は地下の倉庫へと向かう。

当たり前だが、この世界では冷蔵庫などという画期的かつ超便利なアイテムは無い。と言うか、現代人に必須の電化製品諸々が全くないのだ。

なので、殆どの家には食品を腐らせないために地下に倉庫が造られているのだ。

地下倉庫なら、中の気温が低く、年中を通して温度・湿度が一定の為、セルフ冷蔵庫としての役割を果たしているようだ。


そんな地下倉庫の中からパンとチーズ、ベーコンに謎の菜っ葉を漁り、サンドイッチを作り朝食を済ませる。


自分の部屋に戻り街の方角を眺めていると、真上から何かが折れるような音が聞こえてきた。


「……なんだ、この音?」


天井に目を向けてみたが、特に変わったところもない。

しいて言えば、俺が前に開けてしまった穴が板で塞いであるが、少し歪んで……


「……??」


嫌な予感がして部屋の隅に寄った。

それと同時に修繕に使われていた板が粉々に砕け、天井に風穴が開いた。


俺が呆然としていると、床に散らばった木片の中でゆっくりと何かが起き上がった。

全身が真っ青な毛で覆われており、体長は目測2メートル程。

現代で語られる“人狼”を模したその体躯は天井が低過ぎたのか、少しかがんだ状態で俺を見下ろした。


「コボルドってやつか?」


初めてミーネと会った時のような、死の恐怖が沸き上がってくる。

震えそうになる足で地面を踏み締め、とりあえず雷を放って逃走に移る。

ミーネの時のようなスタンを狙っての雷撃だったがコボルドは一瞬の硬直の後、自重で床にヒビを入れながら追ってきた。


俺は別室のカーテンを引き剥がし、両足首に端を括り付ける。

街側の窓に足をかけて両手に魔力を溜める。

すぐ背後にはコボルドが鋭い爪を振り上げていた。


「……あばよ、ワン公!」


俺は窓から身を投げた。

コボルドの振るった爪は服の端を割くだけに留まる。


そして、すぐさま地面に雷撃を叩きつける。範囲重視の雷撃は地面に接触すると激しい気流を発生させた。

俺はカーテンを広げて下から来る気流を捉えた。

そう、捉えた……はずなのだが、そんなことで、人間の体重を支えられる筈もなく俺は地面に着地した。


「失敗、でもいいか。ロマンだしな」


このままパラグライダーのように街まで飛んで行こうという作戦だったが、流石に無理があったらしい。

いつかまた挑戦してみよう。


家に目を向けると、階段を下りてくる音が聞こえてきた。

俺を見失ったようだが、“外に逃げた”という手掛かりを頼り追ってきたようだ。

今のうちにと、俺も音を立てないように、街へと走った。

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