第22話 前世の記憶

目が醒めると、見慣れた天井が視界に写っていた。


「ここは……俺の部屋か」


状況から察するに、カルムかスフィーかが運んできてくれたのだろう。

扉に目を向けると、ちょうどカルムが入って来た。

俺は意識を失う直前の会話を思い出す。


「と、父さん。前世の記憶持ちって本当なの?」

「ああ、本当だ。と言っても曖昧な記憶だがな」


ベッドの近くに椅子を寄せ、カルムは軽く頭をさすりながら話し始めた。


「名前諸々は覚えていないが、これは盗賊(シーフ)の記憶だと思う。俺は生まれた時から細かいことが得意だったんだ。だが、途中から得意とかいうレベルじゃあなくなってきた」

「どういう意……?!」


そう言いながらカルムは腰からナイフを抜く。直後、なんの予備動作もなしにカルムの手からナイフが掻き消えた。


「投擲技術は達人級で気配を消せば大概は見つからない。ちょうどこんな感じにな」


消えたナイフに困惑する俺をよそに、カルムが扉を指差す。

そこには行方知らずだったナイフが深々と突き刺さっていた。

これには俺も唖然とする。


「しまいには、元の記憶の師匠みたいなのまで頭に出てきてグッチャグチャでよ。俺が俺じゃあないみたいで、一時は自殺願望すらあった。どうだ?俺自身記憶としちゃあこんな感じだ」


自傷気味に笑い、おどけて見せるが、実際は辛かったのだろう。

カルムは自分の記憶に重なるようにして残っていたのか。


「ありがとう。とりあえず俺の症状とは違うみたいです」

「そうか、参考にならなくてすまんな」


申し訳なさそうにカルムは頭を掻いた。しかし、突然ハッと顔を上げる。


「おう、そうだ。あと『クイックエメル』ってアイテムを使うと記憶の保管・定着ができるらしいぞ。俺は実際に見たことはないから本当かどうかは知らないがな」


こちらは先天性ではなく、後天性、しかも自分で切り取ったり加えたりする記憶なのだろう。


今回得た情報は重要だ。


『クイックエメル』も気になるが、似たような境遇の人間がいると知れただけで気が楽になった。

それに、隠し事をしていないだけで肩の荷が下りた気もする。

どちらもメンタル的な問題だろうし、根本は解決されていないのだが、こういうことも大事だろう。


俺がそんな風に感傷に浸っていると、カルムが思いついたように手を叩く。


「そういえば、ライル。お前、一人称が『俺』だったんだな。どうする?俺の呼び方は父さん、スフィーの呼び方は母さんのままで大丈夫か?」


さっきの“俺の部屋”って独り言が聞かれていたか。失敗失敗、でも人前では一人称は『僕』だ。

なんたって印象がいいからな!


「そうか、たしかにこれから色々と不都合が起きてきそうですし、決めておきますか」

「くっ、息子と大人っぽく話してるのを聞くとなんだか感動するぜ!」

「2歳児に感動するのはいいですが、とりあえず母さんも呼んでリビング集合してください」

「おう、了解だ」


カルムはスフィーを呼びに行った。

俺も着替えてリビングへと向かう。


父、母、2歳児によって行われる、そうだな、名前を付けるなら……第1回、家族会議の開催だ!

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