第12話 俺的理論

目の前の真っ赤な少女は、さっきまでクレーターの中心にいた筈だ。

クレーターの中心を見ると、もうそこには少女の姿が無かった。

ということは、目の前にいるのは本物か。

いくら何でも早すぎると思うが、瞬間移動でも使えるのだろうか?


「ちっこいの、御主も妾を殺しに来たのか?さっきのの仲間か?」

「えっ?いえ、無関係ですよ」

「ほうほう、無関係か。確かに、こんな小さいのが戦えるはずも無いか」


目の前の少女はそう言った後、状況の理解ができていない俺を無視して1人で言葉を続ける。


「では、1つ問おう。ほれ人間、『自分の存在』を答えてみい。妾の望む答えを導いてみよ」

「自分の存在?」

「ほれ、早く答えろ。さっきの男の様には成りたくないだろ?」


そう言って指差した先には、真っ赤な刃によって体内から切り刻まれた死体が見える。


少し混乱している頭の中を整理するために、今の状況を簡単にまとめてみると、質問に答えて間違えたら死亡ってことでいいのかな。


うん。理不尽すぎるだろ。

そうだ。この質問に答えなかったらどうなるんだろう?

いや、馬鹿なことは止めておこう。

機嫌悪くして、瞬殺されるのがオチだ。


「とりあえず、俺的な意見でいいか?」

「よい。申してみよ」


全てが決まる一瞬、息が詰まった。

喉から言葉が発せられるまでにラグを感じたのは俺だけなのだろう。


「俺は『自分の存在』を“全ての中心”だと思っている」

「中心……主観による中心という解釈という事なら……違うな」


否定、この結果の先にあるのは死だ。

しかし、自然と俺の口角は上がっていた。

恐怖や緊張はあるはずなのに、それを上書きするような異常な感情が流れ込んでくるのを感じた。

そんな俺とは対照的に、目の前の少女は気だるそうに欠伸をしている。


「いいや、違う筈が無い。全ては俺が中心だ。お前が何を言おうとな」


ああ、短かったな。

俺の人生はもう終わりか。

あの答えの何処が間違っていたのだろう。俺には分からない。


人間は自己中心的な生物だ。

そして、俺はそれが悪いとも思わない。

例えば、人はニュースで紛争を見たとしても他人事として捉える人間が大半だろう。そんな事より、自分のやっているゲームや仕事など、身近なものの方が個人的な重要性は高い。


当たり前だ。


前例よりも後例の方が、自身に与える影響が大きいのだから。

他所で何十人、何百人死のうが、ゲームの中のキャラが1体死んだ方が嘆き悲しむのだ。


社会はこの思考を一般とし、自身の価値観や偏見の元で生きている。

そう、それこそ人間らしさだと俺は思うのだ。

うん、正当な意見だと思う。

そう考えると、目の前の少女は無茶苦茶だ。自分と意見が合わなければ殺すとか、理不尽にも程がある。


冷静に考えて気が変わった。

こんな所で死んでなどやるものか。


「理解できないなら俺を殺せばいい。そんな奴が本当の答えなど知る筈も無いがな!」


そう言いながらも、反撃のために両腕に魔力を溜めておく。

簡単に死んでやるつもりも無い。

俺の撃てる、目眩しにスタンを掛けた電撃をお見舞いして、それでダメなら無駄だと思うが、全力で逃走だ。


「ふふっ……開き直りおったか。それにしても御主、歳の割に口が悪いな。どういう教育を受けたのだ?」


俺の言葉を聞いて、少女が軽く笑う。


関係ないが、口が悪いのは、素が出てしまっているからだ。流石に2歳児がこの話し方だと不気味で不釣り合いだろう。


だが、今の問答で話が通じることは分かった。

和解だって出来るのでは…と、考えた矢先、ふっと笑みを消した少女は俺に腕を向ける。


「気にはなるが、不安分子を残すわけにもいかんのでな」


濃厚な死の感覚が迫って来る。

そんな中で、恐怖を払いのけるように、自分を鼓舞するように、俺は叫び、魔力を雷へと変換する。


「油断大敵火がボーボーだぜ、クソったれぇえええ!!!!」


俺は両腕の魔力を雷に変換させる。

そして、少女が腕を上げ切る直前、全てが光で覆われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます