第10話 昼食時

《戦鎚工房》を出た俺は、薬屋に行く前に昼食をとることにした。


現在の所持金は大銅貨1枚、家を出る際に小遣いとして受け取ったものだ。

この世界の貨幣価値はまだ知らないが、これで昼食くらいは買えるのだろうか?

というか、2歳過ぎの子供に金を持たせるだろうか?

この世界では常識なのか、うちの両親がおかしいのか知らないが、少なくとも俺の感覚では異常だった。

どちらにしろ、俺が動きやすいのは確かなので、両親には感謝しておくことにする。


話題の中心にあった大銅貨を握りしめて歩いていると、不意に香辛料のいい匂いが漂ってきた。

匂いのした方向に目を向けると、日本の祭りで見かけるような屋台が目に入った。

鉢巻を巻いたおっさんが肉を串に刺して焼いている。

腹減ったし、昼はあそこで買ってくか。


ーーーーー


「うん、なかなか美味いな」


現在、左手に紙袋を抱えた俺は、香辛料たっぷりの肉串を頬張っていた。

この紙袋の中には、今食べている串の他に4本程入っている。

大銅貨1枚で丁度5本買えたのだ。

屋台の張り紙には“1本銅貨1枚!”と書いてあったので、大銅貨1枚は銅貨5枚相当の価値があるのだろう。

そんなことを考えながら1本目の肉串を食べ終えてしまった。


2本目に手を伸ばそうとしたその時、微かにだが、悲鳴が聞こえた気がした。

声が聞こえた方向を向くが、その方面には森が鬱蒼と茂っているだけだ。


「気のせいか?」


いや、聞こえたのだ。

助けを求めるような、驚いたような声が確かに聞こえたのだ。


遭難や事故なら助けに行きたいが、あることが頭をよぎって森へ踏み込めずにいた。

それは、家にあった本に書いてあったことで、森や洞窟は魔力が溜まりやすい為、魔物や魔獣という恐ろしい生物が生まれるという話だったか。


もしも、魔物に襲われていたら……雷魔法で勝てるのだろうか?

助けに行って巻き添えを食らうのは最悪のパターンだ。


「いいや、考えてても仕方がない。当たって砕けろだ!」


なるべく砕けないことを祈りながら、俺は森に足を踏み入れた。

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