第132話 魔王の企み

「……というわけで、ただいまより『第一回チキチキ「私の方が優れた人造人間ホムンクルスだ」選手権大会』を始めまーす」


「いえー」


「ちょっと待て何だこれは!!?」


 クロウリーはテントの下に準備された来賓席で叫んだ。

 突然怒鳴り声を上げたクロウリーに、ノリノリだった暁と源内は首を傾げる。


「何って……さっき言ったじゃないですか。『第一回チキチキ「私の方が優れた人造人間だ」選手権大会』だって…………」


「だからそれが何だと聞いているんだ!!」


「お前が言っていたじゃないか。『優れた人造人間だと証明する』って。だから我らが魔王はわざわざ自分の王宮で準備をしてくださったんだぞ?」


 クロウリーは源内が大袈裟にへりくだって指し示す暁の方を見る。

 拡声器を片手にドヤ顔をしてこちらを見る暁に対し、クロウリーの額に血管が浮き出た。


「まさか貴様は我々の決闘を自らの余興にする気か!?」


「そんなまさか。そもそも私闘は厳禁だって言ったでしょ? 勿論、決闘だって御法度だよ。今からふらんとイヴちゃんの二人には、この箱の中からくじを引いてもらって、そのくじに書かれているテーマに沿って競い合ってもらいます」


「何ぃ!?」


「くじは源内先生とクロウリーさんが互いに三つ書いて箱に入れてもらいます。条件として書く内容は危険のない、かつ人造人間として不可欠な能力を推し測るモノであること、相手が確実に不利になるであろうことは書かないこと。それらを守ってくれればどんなことでも構いません。それに、これなら『決闘』ではなく『計測』や『腕試し』の類いなのだから僕も何も言いません」


「そのために貴様はこの広い庭にわざわざテントまで建てて準備をしたと?」


「何をするか分からないですからね。出来るだけ広い場所をと考えたら灰魔館うちの庭しか思いつかなかったんですよ」


「ふむ…………」


 クロウリーは腕を組んで考え込む。

 何か裏があることは暁のニヤケ顔を見れば明白なのだが、その内容が分からない。

 それとも、自分の考え過ぎなのか?

 答えの見えない謎に、クロウリーの頭上にいくつもの疑問符が浮かんでは消えていた。


「で、どうしますか? こちらも無理にとは言いませんが…………」


「む…………」


 暁が腰を曲げてクロウリーの顔を覗き込む。

 暁の胸元よりも背の低いクロウリーの高さに合わせようとすると、自然とその形になる。

 中々決断を下さないクロウリーに対し、暁は「仕方ない……」と呟くと、傍らに準備していた紙袋をクロウリーに差し出した。

 突然目の前に差し出された紙袋を、クロウリーは訝しがりながら受け取った。


「…………何だこれは?」


「見てみてください。中にはくじを書くための紙と…………」


 クロウリーは恐る恐る紙袋の中身を覗き込む。

 中に入ってるを目にした途端、クロウリーの小さい肩が大きく揺れた。


「こっ…………これは……!?」


「条件を公平にするために、ふらんとイヴちゃんにはを着てもらいます…………どうします?」


 暁は心底汚れ切った、下卑た笑みを浮かべる。

 暁は、源内から前もって聞いていたのだ。

 クロウリーがに弱いということを。


「どうします?」


 改めて、今度は多少語気を強めて問いかける。

 クロウリーは顔を真っ赤にさせながら、小さく頷いた。



 ※



「ふぅ…………外は相変わらず暑いな……」


 バスを降りた姫乃は、手にしていた日傘を広げる。

 吸血鬼ヴァンパイアの特性か、それとも個人的な体質か、姫乃は強い日光を苦手としていた。

 別に肌が溶けるように焼けたりなどはしないが、長時間強い日射しに晒されると、目眩を起こしてしまうことがあった。

 そのため、今日のような日射しの強い日に外出する時は日傘が手放せない。

 朝から生徒会の仕事で夏休みだと言うのに学校に行っていた姫乃は、アスファルトの照り返しに耐えながら帰路を急いで足早に歩き始めた。


(帰ったらとりあえずシャワーを浴びて…………涼みながら本でも読もう…………)


 頭の中で冷たいシャワーと読書の共のアイスティーに思いを馳せながら、姫乃は屋敷へと歩を進める。

 ふと、日傘の下から前を覗くと、見知った背中が三つほど並んで歩いていた。


「神無、メル……それに澪夢くん」


「あ、姫ちゃんおかえりー」


「おっす、おかえり」


「こんにちは」


 手を振る二人と、お辞儀をする一人の元に姫乃は駆け寄る。


「どうしたんだ三人とも? こんなところで」


「メルちんといっしょにアイス買いに行ってたんだけど、途中で澪夢ちんに会ってね。折角だからいっしょにアイスパーティーでもしようってことになって」


 神無は手にしたビニール袋を揺らす。

 中には業務用のアイスクリームとコーンの袋詰めが入っている。

 確かに、パーティーでも開けそうな量だった。


「すいません、厚かましくて…………」


 澪夢が申し訳なさそうな顔をする。

 そんな澪夢に、姫乃は首を横に振った。


「いや、それは良い。私もぜひご一緒させてもらおうかな」


 そう言うと、姫乃と三人は改めて灰魔館へと歩き始める。

 道すがら、姫乃はふとあることを思い出した。


「そういえば、暁とふらんは帰って来てるのか? 今日は定期検査の日だったろ?」


「ああ、でも丁度俺たちがアイスを買いに行こうとしてた時に入れ違いで帰って来てたぞ。何かバタバタと準備してるみたいだったけどな」


「なんかまた良からぬことでも企んでるんじゃないだろうな…………?」


 姫乃は眉間に皺を寄せて苦々しい表情をする。

 そんな姫乃の顔を見て、三人は頭の中で口を揃えた。


(((ありえる…………)))


 四人は屋敷で今何が行われているかも知らず、ポテポテと屋敷への道を行く。

 四人が屋敷の庭で行われていることに驚愕するまで、あと数百メートルだった。

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