第四章 ホムンクルス
第28話 あの日の夢、いつもの朝
無機質な白さに包まれた部屋。
部屋を照らす眩い照明の光が壁や天井の白さに反射され、部屋の輪郭をぼやけさせる。
そんな中、同じく無機質な青色のベッドに寝かされ、少女は生死の際にいた。
無数の点滴チューブが体から伸び、その全身は包帯で覆われている。
包帯の所々にはおびただしい出血の痕があり、白い包帯を赤黒く染めていた。
そんないつ命の灯が消えるともわからない彼女が、生きていることを証明しているのは、呼吸器から聞こえる微かな呼吸音と、緩慢な心電図の電子音だけだった。
その少女の姿を、宙に浮き真上から見つめるふらんは、ゆっくりとベッドの側に降り立つ。
そして、死の際にいる少女の手にソッと触れた。
(久しぶりだな……この夢を見るのも……)
そう考えながら、ふらんはゆっくり目を閉じる。
そして、次に目を開くと、目の前には、あの無機質の白い天井ではなく、見慣れた自室の天井があった。
ふらんは柔らかいベッドから起き上がると、枕元の窓を見る。
カーテンの隙間から覗く優しい光に、既に日が昇っていることを知らされた。
(もう……朝か……)
ベッドの下に置いておいたスリッパに足を入れると、窓に歩み寄ってカーテンを開く。
灰魔館は街から離れた高台にあり、ふらんの部屋からは、丁度街の中心部を見下ろすことができた。
(何故、久しぶりに
※
ふらんは蛇口から流れる冷たい水で顔を洗う。
既に目は冴えていたが、また一段とすっきりしたような気がした。
しかも、あまり見心地の良くないはずの夢なのに、気分は不思議と晴れ渡っていた。
結局、何故今日
濡れた顔をタオルで拭うと、ふらんは洗面所を後にし、スリッパをパタパタ鳴らしながら、ある部屋に向かった。
※
「姫ちゃん、朝だよ。起きて」
ふらんはベッドの上で布団に埋まる姫乃の体を優しく揺する。
布団がもぞもぞと動き、のそりと姫乃が顔を出す。
いつもの艶やかな髪は寝癖でボサボサで、凛とした切れ長の目は瞼を重そうにしていた。
「うぅん……」
いつもは凛々しくしゃっきりとした印象の姫乃だが、吸血鬼故の特性だろうか。
朝に異常に弱く、こうして誰かに起こしてもらわないと、起きることができない。
そして、その役割を担っているのが逆に朝の目覚めがいいふらんなのだ。
「ほら、今朝も生徒会のお仕事があるんでしょ? 遅れちゃうよ」
「うぅ……」
姫乃はふらんに支えられながら、重い動作でベッドから下りる。
ふらふらと立ち上がった後は、覚束ない足取りで洗面所へ向かおうと部屋のドアに近づく。
そんな姫乃をふらんは慌てて引き止めた。
「待って姫ちゃん! これ羽織って羽織って!!」
近くの椅子に掛けられていたフード付きの上着を姫乃の肩にかける。
今の姫乃は、薄めの寝間着姿で、ほとんど下着に近い格好をしていた。
しかも、寝ぼけているため寝間着の所々がはだけ、その扇情的な肢体を惜し気もなく晒している。
特にその豊かな双胸に至っては、今にも服からこぼれ落ちそうになっていた。
この屋敷には気の置けない者しかいないため、そこまで格好に気を遣う必要はないように感じられるが、今の姫乃を見て約一名鼻息荒く喜びそうな男がいるためのふらんなりの配慮であった。
「姫ちゃん、よく前見て。しっかり歩いて」
「うぅー……うん……」
上着を羽織った姫乃は、ふらんに見送られながら、今度こそ洗面所へ向かっていった。
いつもは姫乃にあれやこれやと世話を焼かれる立場のふらんであったが、こと朝の時間だけは逆にふらんが姫乃の世話を焼く立場であった。
(それにしても……相変わらず姫ちゃんの体……すごいなぁ……)
先ほど見た姫乃の凄まじいスタイルと、自分の体を比較する。
あそこまで女性的な魅力を持った体型をふらんは他に知らない。
姫乃とは対照的なささやかな自分の胸に手を置いて、ふらんはため息をついた。
(私も……もう少しくらい成長してくれないかなぁ……)
歳は一つしか違わないはずなのに、ここまで体型に差があることをふらんはひどく気にしていた。
同じ年齢の神無は、流石に姫乃には及ばないが、それなりのスタイルをしている。
それなのに自分は未だに幼児体型でちっとも女性らしさが感じられない。
(……暁ちゃんもほとんど私には何もしてこないし……女として魅力がないんだろうな……)
ふらんが自分の体のことを憂いていると、そこであることを思い出した。
(そうだ……今日はあの日だった。だから
今朝
頭の中では、今日の大事な予定のついでにある人物にある相談をしようと考えていた。
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