RE072

「襲」

 話を聞かれたくない「誰か」の存在を意識した、白との「内緒話」を切り上げて。伊月はわざとらしいほど明るく無邪気な子供ぶった声で、事の成り行きを静観していた襲を振り返る。

「せっかくだし、を取ってきたら?」

 横目でちらっ、と白の様子を窺った襲はらしくもない、下手くそな微笑を浮かべて――

「ありがとう、伊月ちゃん」

 まだ碌に言葉を交わしてもいない母娘二人へ断りを入れると、双子が見慣れた現し身アストラルボディをその場で掻き消した。


「(襲って、こういうところ素直よね)」

 独り言と変わらない調子で鏡夜へと囁く伊月のには、意外というほどでもないが、どことなく拍子抜けしたような感情が滲んでいる。


「(それを代わりの土地神人柱にするの?)」

「(本人たっての希望だもの。鏡夜も、白さまが『戻りたい』って私に言うの、聞いたでしょ?)」

「(聞いた)」

 日代の女が産んだ子供は、男であれば男親の元に残され、女であった場合とであった場合は日代へ引き渡される。そういう慣習ならわし

 本来、日代へ引き渡されるはずだった男女の双子伊月と鏡夜は「護家八坂への報奨」という体裁で例外的に男親の元へ残されているにすぎず。襲が還俗してしまえば、日代は「日代の女が生んだ双子」の身柄を引き渡すよう、護家八坂へと要求するに違いなかった。

 それほど厚顔に振る舞ってみせたとしてもおかしくはないと思えるだけの前情報。皇主の下知によって八坂の国津神へと嫁した一夜妻が、日代にとって「日代の女」以上に特別な「男女の双子」を生んだ結果としての一悶着。その仔細を、双子は我が身に降りかかる可能性がある「火の粉」、あるいはその「気」として確と伝え聞いている。


 それを知ってか知らずか。〔扶桑〕の王を味方につけているとはいえ、伊月の前で襲の還俗について言及してみせた。白の思惑を、鏡夜とて訝しんではいたけれど――

「(私、人形遊びは好きだけど。私で遊ばれるのは大嫌い)」

 ひとたび伊月の逆鱗に触れてしまえば。その背景にどれほどの「理由」があったのだとしても、関係がなかった。


(知ってる)

 荒事が専門の討滅士ならまだしも。高天原を離れられない皇主の御杖代傀儡としていいように使われた挙句、自分自身魂を分けた双子もう半分片割れと番わされるような未来を唯々諾々、そういう「しきたり」で、日代の女に宿ってしまった「運命」だと聞き分けてしまえるほど人生を達観できてはいないし、今となってはそれほど悲観もしていない。

 だから。鏡夜は伊月のを止めないし、その必要があるとも思わなかった。

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