RE070

「(妹よ)」

 伊月がそう言うからには、事実としてそうなのだろうと。一つの魂を分け合って生まれた片割れを、鏡夜は疑わない。

「(幾つ?)」

「(私たちと三つ違い、四月生まれの六歳。……興味ある?)」


 意外そうな響きを含んだ伊月のに、鏡夜はゆるくかぶりを振りながら応えた。

「(あんまり)」

 そうでしょうねと、声に納得を滲ませた伊月。

 わざわざ「繋ぐ」必要もないほど深く繋がり合っている相手の意識が自分から逸れたことを、鏡夜は感覚的に理解する。

 そうは言っても。伊月の場合、その意識が一所ひとところを注視していることの方が珍しいくらいだが。


彩花あやかまで……」

 絵に描いたような夫婦の再会、親子の初対面とはならず。伊月が用意した「口止め料」を前に立ち竦んだ襲の視線が、苦笑交じりに傍らの娘を振り返る。

「どうやったの?」

 声をかけられた伊月が襲へ向き直るタイミングで、鏡夜は片割れがその意識だけで捉えている相手を視界に入れた。

「日代の禁苑から人を攫ってくるなんて、直接会ってもいない夫婦が子供を作るより簡単よ」

「そう言い切れちゃうあたり、さすがだなぁ。頼もしすぎて涙が出そうだよ」


「言っとる場合か!」


 巨大なコンテナが出現した神楽殿の前へとやってきて、開口一番批難がましい声を上げたのは、伊月が気安い調子で「白さま」と呼ぶ少女。

 襲にその役目を押しつけるまでは八坂の地を預かる国津神の一柱であったのだという現ニートは、盛大に眦を吊り上げ伊月へとがなり立てる。


「日代の女を攫うなど! 神子は皇主に弓引くおつもりか!?」


(こいつ、馬鹿なのか)

 伊月のよう「前世の記憶」とやらに目覚めてすらいない鏡夜にもわかる物の道理が、双子よりも遥かに長く生きている元国津神に理解できないはずもないだろうに。

 いったい、こいつは何を言っているのかと。鏡夜が伊月へ向けた視線には、酷く物騒たのしげな笑みが返された。


 鏡夜と瓜二つの容貌。その唇が描く笑みは研ぎ澄まされた刃のように鋭く、嗜虐的な角度で吊り上がる。

「私がこの世でいっとう嫌いなものを教えてあげましょうか」

 詰め寄ってきた白との距離をいっそう縮め、唇を寄せた耳元でそっと囁くよう、伊月は告げた。


「――――」

 その声は突然の風に巻き上げられ、直接吹き込まれた白以外、誰の耳にも届きはしない。

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