RE067

 ひとまず、ゲストラウンジに居た全員で上がったタワーの屋上。

 成体の竜種が複数下りても問題ない広さのヘリポートには、伊月が「竜籠カゴ」と呼んだ輸送用のコンテナと四輪の自走車ビークルが、事前の手配どおりに揃えられていた。


「はじめて」

 伊月の指示を受けて、愛花と彩花に付き添う二体の自動人形オートマタはコンテナの脇に停められた自走車へ。


「失礼します」

「彩花さまはどうぞ、こちらへ」

 立てた卵を斜めにカットしたようなフォルムの車椅子ごと、愛花が自走車へと積み込まれる傍ら。躊躇うよう足を止めた彩花へと、自動人形オートマタの片割れが乗車を促す。

「伊月――」

 身軽にコンテナの上へと上がり、暇潰しがてら繋がれたワイヤーの様子を見ていた伊月は、愛花に呼ばれ自走車の傍へと戻った。

「あなたは乗らないの?」

「竜に乗るのも、荷物として運ばれるのも好きではないので」

 神子として滞在資格を得ている伊月には、そもそも愛花や彩花のよう護家八坂の隠れ里をきちんとした手順で必要がないのだという、あくまで「建前」でしかない話もそれらしく付け加え、伊月は手を止めていた自動人形オートマタたちを作業の続きへ取りかからせる。


「(こんなの着けなくても、落としたりしないのに)」

 コンテナの向こうでぼやくキリエは、白皙の美少年から年若い竜のそれへと姿を変えていた。

「(そうかもしれないけど、一目見て『安全そう』なのも大事でしょ)」

 その背に「鞍」を乗せようとする黒姫奈を、銀竜の体から伸びる鬣紛いの「影」は甲斐甲斐しく手伝っているのだから、世話はない。

「(こっちの方が黒姫奈わたしも乗りやすいし)」



 双子というコンセプトで容姿に差違の無い、二体の自動人形オートマタ。そのどちらが長門で、どちらが陸奥か。見分けの付かない伊月に一礼した方の一体が、乗り込んだ自走車をコンテナへと走らせる。

 残ったもう一体は、自走車が積み込まれたコンテナを外側から施錠した。

「緩衝液の生成を開始します」

 コンテナの扉に埋め込まれたパネルからの操作でコンテナに外付けされている転換炉が唸りを上げ、密閉されたコンテナ内部へと緩衝液魔水を注ぎ込む。

 外付けの転換炉から伸びるホースの先端についたバルブが独りでに外れるのが、コンテナ内部が緩衝液で満たされた合図。

「黒姫奈」

「こっちは準備できてるわよ」

 コンテナから伸びるワイヤーを銀竜の鞍へと繋いだ自動人形オートマタは、黒姫奈が気安く誘うのも固辞してコンテナの上に留まった。


「それじゃあ、行ってくるから」

「いってらっしゃい」

 鞍からぶら下げたコンテナ一つ分の重さを少しも感じさせずに飛び立った銀竜を見送り、一仕事終えた伊月ははふ、と息を吐く。

「さて――」

 目的地は、洋上に浮かぶ人工島沖の浜の目と鼻の先。銀竜とそれを駆る黒姫奈が「荷物」に気を遣いながら遊覧飛行と洒落込んだところで、到着までに何十分とかかりはしない距離だった。

「そろそろ主役を呼んで来ないと」

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