RE066 長門と陸奥

「「お待たせいたしました」」

 長年の寝たきり生活がたたり、落ちきった筋力のせいで一人歩きもままならない愛花へ〔扶桑〕がつけた介助役。

 お仕着せメイド服に身を包む二体の扶桑式自動人形オートマタ。「長門ながと」と「陸奥むつ」が、ゲストラウンジの入り口から一足先に到着していた伊月たちへとお辞儀する。


「おはようございます」

 腰を落ち着ける間もなかった伊月は挨拶もそこそこ、自走式の車椅子に乗せられてきた愛花とそれに寄り添う彩花へ黒姫奈を紹介した。

「ここから八坂の分社がある最寄りの神門宿まで、彼女たちに送らせます。黒姫奈はティル・ナ・ノーグのグレード1、パートナーのキリエが竜の因子持ちドラゴンもどきなので、ここから飛べば竜籠カゴの中で退屈する間もなく速見宿目的地につきますよ」


「どうも」

 完璧に営業用の対応で愛想良く笑って見せはしたものの、片腕に少年姿のキリエをしがみつかせた黒姫奈は足首まで届くスカートを形ばかり摘まんだだけで、実際に腰を落とすような真似はしない。

 キリエが邪魔で……という物理的な問題以前に、グレード1と認定されてしまえばむしろ、仕事のクライアントだろうと何だろうと誰彼構わず頭を下げる方が非常識というものだった。

「伊月のお友達?」

「重要な仕事を不安なく任せられる程度の関係ではあるので、ご心配なく」

 黒姫奈については「ヴラディスラウス・ドラクレアの〔花嫁〕」という社会的な立場が多分に影響した認定なので、その例に漏れるが。たとえにならなくとも、程度のノリで国一つ滅ぼすことができるのがグレード1、災厄級カラミティと呼ばれる存在であるからには。余計な詮索はしない方が身のためだと、皇国という大きな箱庭で育てられた「お姫さま」に脅しをかけて。伊月は黒姫奈を振り返り、斜に構えた傀儡おんなへと単なるポーズでしかない視線をくれる。


「それじゃあ、行きましょうか」

 心得たとばかり黒姫奈が頷き返すのも、当然、第三者による観測を意識した演技ふるまいでしかなった。

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