RE064

「(〔傀儡廻しマリオネッター〕を起動。義体を選択……)」

 簡易魔導器デバイスの思考制御は念話の応用。

 新調したデバイスからのフィードバックを、手元に開いた表示領域スクリーンから適宜調整しつつ。固有領域セーフエリアの〔クレイドル〕から黒姫奈を起き上がらせた伊月は、八坂伊月の目の前で甲斐甲斐しくブラウスの釦を留め直している方のキリエに意識の焦点を合わせた。

「(混線してない?)」

「(何が?)」


 伊月の新しいデバイスは、キリエの魔力を高密度で結晶化させた魔晶石マテリアを「核」に作られている。

 そのキリエと伊月は、通常魔術師同士の念話で使用される「精神リンク」よりも魔術的に強固なメビウスクラインで繋がれていて。キリエに対する念話と、デバイスに加工されたキリエの魔晶石マテリアに対する指示が、何かの拍子に混線したとしても不思議はなかった。

「デバイス機能に影響が出るような干渉の仕方はしないでよ?」

 あるいは。伊月の動向を把握できるよう、キリエがあえて魔晶石マテリアへの影響力を残している可能性もなくはない。

 魔晶石マテリアどころか、デバイス機能を持つ黒姫奈ドォルの転換炉へキリエの魔力炉そのものを混ぜ込んでいる時点で、今更と言えば今更な釘刺し。キリエの「覗き」を咎めるつもりもない伊月は気休め程度の念を押し、すり寄ってくる吸血鬼を押しやった。




 身軽にベッドを飛び下りていった伊月が、キリエに向かって片手を開く。

「ドラクレア」

 伊月がそう呼ぶのは、キリエの小竜姿。

 そう理解してはいるのものの。一瞬、ヴラディスラウス・ドラクレアの正装姿に変わって見せようかと微妙な悪戯心を起こしかけたキリエは結局、素直に伊月が意図したとおりの姿へアストラルボディの定義を書き換えた。


 幼子こどもが抱えるのに手頃なサイズの小竜へ。青年姿のアストラルボディを構成していた魔力の大半を切り捨て、薄い皮膜の張った翼を広げる。

「黒姫奈も呼ぶから、『キリエ』はそっちについてて」

 必要に応じて意識を分割できる人外にとって、二つの体を同時に動かす程度のマルチタスクはなんら難しいものではなかった。

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