RE063

 仮想端末バーチャル・コンソールを広げるのに邪魔だと。半身起こしたキリエの肩を、端末由来の表示領域スクリーンへ目を釘付けにしたままの伊月がぞんざいに押しやる。

「すぐ終わらせるから、大人しくしてて」

 緩やかに抱き寄せていた肢体から手を離し、渋々ながらも押し倒された吸血鬼。

 その「上」にすとん、と座り直した伊月を、キリエは伸ばした両手で鳩尾の辺りまで引き寄せた。



 簡易魔導器の構成要件を満たす(最低でも「屑石」とは呼ばれない等級の)魔晶石マテリアにパッケージ化された魔術式スクリプトを封じ込め、人造王樹デミドラシルによる整合性の確認をクリアした上で使用者登録を終えてしまえば、「自作デバイス」として最低限の体裁は整う。

 そこからの、個人設定を反映させるための細々とした調整作業もすんなり終えて。とっかかりから二十分ほどで晴れて「用済み」となった補助端末ゴーグルを、伊月は無造作にキリエの影へと押し込んだ。

「こんな簡単なこと、どうして思いつかなかったんだろう」

 独り言めいた疑問の「答え」は、キリエからしてみれば歴然としている。


黒姫奈は私のことを、そんなに好きじゃなかったから)

 喉元過ぎれば、なんとやら。

 八坂の双子として生まれ変わった今となっては、黒姫奈として生きていた頃、キリエに対して抱いていた苦い感情などすっかり忘れ果ててしまった様子の伊月を前に、自ら藪をつつくような真似ができるはずもなく。〔花嫁〕を持つ吸血鬼らしく臆病でいて、災厄級それなり人外ひとでなしらしく傲慢でもあるキリエは何食わぬ顔で半身を起こすと、伊月の新しい玩具にされた薔薇の徴へ、そっと触れるだけのキスを施した。

(もう違う)

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