RE060

「自己管理がなっとらん」

 昨日に引き続き、今日も朝稽古へ顔を出した白にぶつくさ言われながら日課をこなし、それが終われば半ば機械的に食事を詰め込んで。見ていて心配になるほど盛大に頭をふらつかせながら離れへ戻ろうとする鏡夜を、伊月は冷やかし半分に追いかける。




「ごちそうさまっ」

 足取りの覚束ない鏡夜に続いて、少しばかり慌ただしく席を立った伊月。

 その手にがしっ、と胴体を掴まれ、直前まで双子が使っていた座布団の間に下ろされて。何故? と傾く小竜キリエの頭に、伊月の手が積み上げた二人分の食器を乗せていく。

「片付けといて」


「えっ」


 頭の上でがちゃつくワレモノと転げ落ちそうになった箸を、小竜キリエは鬣紛いの「影」を伸ばして捕まえた。

「伊月ちゃん、さすがにそれは……」

「いくらでも、食器下げて水に浸けとくくらいできるわよ」

 食卓が置かれた部屋の前を横切る畳廊下の途中で足を止め、振り返った伊月から「ねぇ?」と声をかけられ、まぁそれくらいはと、持ち上げた皿の下で首肯する。

 ほらね、と言わんばかりの顔で今度こそ、伊月は廊下の向こうへ立ち去った。


「そういう問題じゃないんだけどなぁ」

 新旧の土地神に、その神使たち。

 残された面々の物言いたげな視線を一身に集めたキリエは、さすがになとアストラルボディの定義を書き換え、頭上へ掲げるよう支えていた食器を五指の揃ったに持ち直す。

「いいんですか、あれ」

「良いも悪いもあるか」


 左右の部屋に面した建具を開け放たれ、一見して廊下とわかりにくい通路を、伊月が向かった離れとは真逆に進んだ突き当たり。

 からりと開けた引き戸の向こうに待ち構えていた扶桑オートマタが、キリエの手から重ねた食器を取り上げる。

「お嬢さまのお側へ、どうぞ」

 その口振りは、主人に対する奉仕というより厄介払いのそれだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます