RE058

 現実と見紛うほどに生々しい明晰夢。キリエによって掌握され、固有結界の内側へ取り込まれているのと意味的には大差のない眠りから、伊月が目覚めると。明かりが落とされていて暗い室内の、すぐ近く。寝床を並べて寝ている鏡夜とは反対側の、畳へ直敷きした布団の端に、キリエが華奢な青年の体躯を横たえていた。


 夜明け前の、しっとりと冷気を孕む闇の中。のっそり体を起こした吸血鬼が伊月の胸元へと顔を乗せ、強請るよう頬をすり寄せてくる。

「(お腹空いた?)」

 すぐ隣で眠っている鏡夜への配慮でしかない念話。

 キリエの頭を抱き寄せた伊月が、許容を込めてと。その体は、覆い被さってくる吸血鬼ごとずるっ、と影に落ち込んだ。




 亜空間経由で固有領域へと連れ込んだ伊月の首元を、ぬるりと舐めて。嫌がるどころか差し出すよう晒された柔肌を、キリエはつぷっ、と喰い破る。

「ぁっ……」

 痛みを鈍らせるためキリエが注ぐ魔力と、肉を喰い破る牙の異物感が呼び起こす快楽に本能的な恐怖が相俟って、淫らに震える肢体。未熟な体の熟れた反応を腕の中に閉じ込めながら啜る鮮血は、キリエの飢えを甘美に満たす。

(もっと)

 それは、ともすれば――


「(キリエ)」


 吸血鬼にとって最も無防備でいて、我を忘れやすい吸血しょくじの最中。

 加減を知らないかのよう振る舞う吸血鬼を咎める幼子こどもが、キリエをはたと我に返らせる。

「(それ以上するなら、夜にして)」

 やんわり肩を押してくる手に逆らい、キリエは濡れた肌へと這わせる舌に魔力を込めた。




「朝から気合い入れて吸い過ぎ……」

 とろとろと血を流す咬み傷が跡形もなくなって、ようやく。最後に盛大なリップ音を立て、伊月の首元から顔を上げたキリエ。

 満ち足りた息を吐き、〔花嫁〕を下ろしたベッドへごろりと寝転がった吸血鬼には目もくれず。仰向けに寝そべる体の正面へと、伊月は非端末由来の表示領域スクリーンを呼び出した。


 すんなりと立ち上がる仮想端末バーチャル・コンソールの起動画面には、〔扶桑〕からの「報告」が早くも届けられている。

(さすがデミドラシル。仕事が速い)

 そうであることを半ば期待していた伊月は、すり寄ってくるキリエを構いもせず、一眠りしている間にあっさり捕獲された愛花の「おまけ」について、〔扶桑〕がまとめたレポートを読み込む。

(……〔ナンバーズ〕?)

 そこには、伊月が予想していたより興味深い事実が記されていた。

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