RE055

「あの人は?」

「メディカルチェックが先です」

 どこぞの人外ひとでなし、あるいはやり手の魔術師か。どちらにせよ正体不明の「何者か」による干渉を受けていると思しき愛花を、なんの備えもなく鏡夜の傍へと連れて行けるほど豪胆ではない。

 どちらかと言えば疑り深い方だった黒姫奈の性質を、おそらくは鏡夜よりも色濃く受け継いでいる伊月は、突然見知らぬ場所へ連れて来られたというのに緊張感の欠片もない愛花から外した視線を、そのまま扶桑へとスライドさせた。

「フルスキャン。ついでに身分証IDも二人分」

「承りました」


 伊月が固有領域のガレージに並べているものよりも一回りかそこら大きな、医療特化の〔クレイドル〕。

 これに放り込んでおけば徒人が死ぬことはまずないという代物へ横たわり、扶桑オートマタの手で外された点滴類の代わりに生成された魔水へ体半分浸け込まれた愛花が、眠るよう意識を落とす。

「母さま?」

 不安に声を震わせた幼子。

 彩花への対応方針を尋ねてくる扶桑の視線へ、伊月はいたって鷹揚な仕草で首肯した。

 よきにはからえ。

「眠られただけですよ」

 客分として招いたつもりこそないが、虜囚として扱うつもりもない。……とはいえ、見かけ通りの子供でしかなさそうな彩花に対して、どのように接するのが「正解」か。それがわかるほど子供というものに慣れていない伊月は、彩花の注意が扶桑へと向けられているうちに、両手で抱えた小竜キリエを揺する。

「(戻る)」


「母さま、やっと目が覚めたのに……」

 ずるっと沈み込むよう、連れ込まれた影の中。抱えていた小竜の感触が消えてなくなると、今度は伊月が「お気に入りのぬいぐるみ」の如く抱え込まれる番だった。

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