RE054

 伊月と鏡夜双子の生みの親だという女と、その娘とされる子供。

 「陽動」と称して、魔術もろくに編めない徒人相手に好き放題暴れ回っている黒姫奈。

 銀鱗の小竜キリエを抱えた伊月に、観測要員として連れてきた扶桑オートマタ


「撤収」


 伊月が溜め息とともに吐き落とした言葉に応え、キリエはそれだけの人数をまとめて――内二人の徒人については、亜空間内でうっかり死なせてしまわないよう気を回しながら――影へと呑み込んだ。

 「荷物」の届け先は、沖の浜セントラルタワーのレジデンス。

 共有エリアのゲストルームに用意された医療用〔クレイドル〕へ、繋がれた機材ごと運んできた愛花を何事もなく下ろすのは、それなりの集中と繊細さが要求される作業だった。


「(黒姫奈は屋上に出せる?)」

「(出せるよ)」

「(じゃあ、出して。動きはだいたいわかったし、無茶な飛び方をしないなら背中に乗ってあげる)」

 やらないよりは……という、申し訳程度のアリバイ工作。

 あるいは、消化不良気味な鬱憤晴らしの続き。

「(嶺を墜とした辺りを確認してから、神門に寄って)」

 セントラルタワーの屋上ヘリポートで、キリエが編み上げた銀竜アストラルボディに自分から乗り上げた黒姫奈は今朝方の怖がりようが嘘のよう、飛び立つ竜の背で平然としていた。




 隠蔽効果のある魔術が編み込まれた魔布を、伊月が脱ぎ落とすと。それまですっぽりと覆い隠されていた小竜キリエの存在にようやく気付いた幼女こどもが、はっと目を瞠る。

「どらごん……」

 日代ひしろ彩花あやか

 〔扶桑〕が上げてきた「報告」によれば、今年六歳になった愛花の娘。

 一夜妻として八坂の土地神に嫁いだ愛花が「務め」を果たし、日代へと戻されてから産んだ三人目。

 伊月の異父妹は、血縁などあろうはずもない襲と気味が悪いほどよく似ていた。

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