RE051

 小一時間ほど里の上空を飛び回り、新しい傀儡おもちゃの感覚を掴んだ伊月は、そのまま護家八坂の隠れ里から飛び出した。


「どこ行くの?」

「いいところ」

 雲を抜け、高空で速度に乗った銀竜は一路、東へ。

 見晴らしのいい土手から上空を飛び回る銀竜の姿を見世物のよう眺めていた伊月は、キリエを連れ家へと向かって歩き出しながら、ご機嫌な鼻歌交じりに手持ちのデバイスを叩く。

日代ひしろ愛花あいかの現在地を」

 斜め前方に現れた表示領域スクリーンへそう囁くと、伊月個人が使いやすいようあれこれ手を加えてあるホーム画面とは別に、その隣へ新たな表示領域スクリーンが開かれる。

「誰?」

「(私と鏡夜の生みの親。……さすがに日代は知ってるわよね?)」

 皇国生まれで「日代ひしろ」「神門みかど」「華月はなつき」の御三家を知らない、というのは、余程の世間知らずか、それこそ物心つく前の幼子でしかあり得ないことだが。大陸生まれであるはずのキリエは、歴史的なもので言えば御三家どころか皇国という国そのものよりも個人として長く生きている。

 ティル・ナ・ノーグの総督ヴォイヴォダという肩書きはさておき。キリエが盛大に首を傾げたとしても、伊月は驚かなかった。

「(天照の依代を出してる日代なら知ってる)」

「(そう、その日代)」

 知っているなら、それはそれで話が早い。


「(その現在地ってことは、つまり……)」

 処理中を示すアイコンが消え、二つ目の表示領域に映し出された地図には[日代愛花/昏睡]とラベルを貼られたピンが立っている。

 八坂の里を離れた銀竜の現在地から、ピンの地点まで。手早く経路案内を設定した伊月は、何かに気付いたよう念話ことばを途切れさせたキリエを仰いで、殊更にっこりと笑う。

「(襲を黙らせるにはちょうどいいでしょ)」


 日代愛花の所在と知れた東都まで。八坂の里からは、銀竜の翼でのんびり飛んで二時間ほどの距離だった。

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