RE050

 キリエが操る影の「手」から受け取った竜牙製のナイフを、ためつすがめつ。上質な牙の手触りをひとしきり堪能した伊月が、精緻な彫刻の施された刃をなめし革の鞘へと納める。

「これ、黒姫奈に使わせてもいい?」

「いいよ」

 差し出されたナイフを、キリエはいたって無造作に、口を開けた銀竜の喉奥へと投げ入れた。


 ばくんっ、と呑まれたナイフは、銀竜がその腹に抱える黒姫奈の元へ。


「主上――」

 魔導円サークルの輝きとともに現れた扶桑が差し出してくる記憶媒体ストレージもついでとばかり食わせた銀竜を、キリエは広場の中心へと向かわせる。

「今の何?」

「戦闘機の運用に用いられる標準的な術式スクリプトをまとめたものです」

「えっ」

 扶桑オートマタの返答に声を上げた伊月の手が、余所見をしていたキリエの上着を引いて視線を強請る。

 それを拒む理由もなく、呼ばれるがままに振り返ったキリエの物理的な視界の外で、翼を広げた銀竜が空へと舞い上がった。

「精神リンク経由で五感共有した方が簡単じゃない?」

「あんまり深く繋がりすぎると私がお前を離したくなくなるから、危ないよ」

「えー……」


 ストレージに封入された魔術式スクリプト群の確認を終えたキリエはそれを元に、眷属紛いの銀竜を「調整」する。

 日頃から有り余っている魔術演算領域を分割、専用の演算領域を設け、魔術式を流し、伊月に無断で黒姫奈の演算領域へと干渉して――

「扶桑」

「お任せを」

 黒姫奈への非正規干渉ハッキングによって起きるセキュリティエラーを〔扶桑〕の権限で黙らせ、伊月のデバイス上で起動中の限定術式プラグインに、「分体キリエ」のマテリアルボディである銀竜を伊月が所有する傀儡おにんぎょうの一体として認識させる。


 飛び上がった銀竜が雲を抜けるまでの間にそこまでの準備を終え、キリエは一時的に外させていたゴーグルをかけ直すよう、伊月へ促す。

「あっ」

 〔傀儡廻しマリオネッター〕を用いることで、銀竜を手持ちの自動人形ドォルと遜色なく操ることができると気付いた伊月がご機嫌でキリエを労うまで、そう時間はかからなかった。

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