RE047

「桐生さん、黒姫ちゃんのこと探してるよ」

「……でしょうね」

 神門側で何らかの手配がなされていなければ、黒姫奈がライセンスを再取得した途端、嶺が沖の浜へと現われたことに説明がつかない。

 そうと理解した上で、伊月は嶺の誤解を解くための努力を怠った。


「桐生からは異能絡みの仕事を請け負ってたから」

 口ではなんとでも言える。だからこそ、人造王樹デミドラシルに「魔術として再現不能の奇跡まほう」と認定された異能の行使をもって真贋の証明をとでも言われてしまえば、伊月が出張らない限り、魂が抜け出た遺骸の成れの果てでしかない今の黒姫奈が嶺――そして、そのパートナーである桐生――に対して身の証を立てることは難しい。

 そして。そこまでの手間をかけようと思えるほど、伊月にとって桐生という男は価値のある相手ではなかった。

「普通に心配してる、って可能性は?」

「あの俺様パワハラ野郎が? まさかでしょう」

 一時期仕事を干されていた恨みを、伊月は今でも忘れていない。




 わかりやすく機嫌を損ねた伊月が、キリエの腕を払い除けて立ち上がる。

「親戚筋ってことなら、伊月わたしが桐生と顔を合わせることもあるかもしれないけど。その時は全力でしらばっくれるから、襲も余計なこと言わないでね」

襲の前を通り抜け、開けっぱなしの窓から庭へと裸足のまま飛び下りようとする伊月。その足元へ、キリエは瞬き一つするほどの間に柔らかな布靴を編み上げた。

 玉砂利の敷き詰められた地面へ音もなく着地した伊月は、そうして何くれ世話を焼かれることが当然のような顔をして、キリエのことを置いていく。


「ついて行かなくていいんですか?」

 傍からそう声をかけられてようやく、キリエはそういう選択肢が、今の自分には許されていることを思い出した。

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