RE032 〔倭〕

 扶桑樹の端末オートマタが同席していようと、いまいと。キリエと伊月の周囲に関しては常時、精密な観測の対象で、交わされた会話から何から具に記録されていることはわかりきっていたが、それはそれ。

「あくまで八坂さとの話じゃぞ?」

「私、見ての通りたったの九歳児ですよ? 相談役の一人もいないと難しい話はちょっと……」

 わかりやすいアバターがいるのといないのとでは、心証面で色々な違いが出てくると。そのあたり、伊月は、当たり前に徒人的な感覚を残していた。

「(それ、自分で言ってて恥ずかしくない?)」

「(全然。まったく。これっぽっちも)」


「御主、そういうとこ襲とそっくりじゃな……」

 〔扶桑〕と念話で話せるよう、精神リンクを未だ構築していない、という現実的な問題もある。




「扶桑ー?」

 伊月が一声上げれば、大して広くもない室内、敷き詰められた畳の上に先触れ代わりの魔導円サークルが描き出され――

「お呼びでしょうか」

 ほんの一拍程度、間を置いて現れた扶桑式オートマタ単独ひとりではなく。どういうわけか、白とそう年頃の変わらない少女を伴っていた。


「何そのかわいいの」

 離れようとしないものは仕方が無いと、キリエを座椅子代わりに座り直した伊月が気安く問えば。扶桑はその場から半歩下がり、同伴者である少女を伊月の前へと一歩押し出す。

「倭です」

 その何食わぬ一言に誰よりも劇的な反応を示したのは、元土地神という肩書きを持つ白だった。

「なっ……」

「倭、ご挨拶を」

 ぎょっと目を剥いてその場から大仰に身を引いてみせるという、お手本のようなリアクションを取った白を一顧だにせず、〔扶桑〕はあくまで淡々と〔倭〕を促す。

 伊月の前へと押し出されたは、キリエに座る伊月の前へと躊躇いのない所作で膝をつき、肩口を流れ落ちた髪が畳を這うほどめいっぱいに頭を垂れた。


「第三世代人造王樹デミドラシル、個体名を〔倭〕。

 我が名において、御身に誓約を。身命を賭してお仕えするとお誓い申し上げます。――我が王、我が主さま」




「幾久しく、お納めください」

 駄目押しのよう、倭の後ろで膝をついた扶桑にまで深々と頭を下げられ、伊月は幾分、現実逃避気味に顔を覆い、天を仰いだ。

「まじかー……」

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