RE025

 噛み千切らんばかりの勢いで歯を立てられた舌から滲む血を、キリエに身を引くことさえ許さず、自分から両手でしがみついてきた〔花嫁〕が躊躇いもせず嚥下する。

 これではまるで立場が逆だと。呆れの滲む内心を余所に、キリエの手はいつの間にやら、中途半端に上体を起こす伊月の背中を支えていた。


「(魔力、足りない?)」

 ちぅちぅと、食事に慣れないがするような伊月のやり方は、キリエにとってなんとももどかしい。

 それではいつまで経っても体が楽にならないだろうと。なんだかんだ、伊月の気紛れや理不尽に慣れてしまってもいるキリエは懲りもせず、抱き寄せた幼子の狭い口腔をぴりぴりと痛む舌でまさぐりながら、溺れかけた者へと息を吹き込むように魔力を注いだ。


「っ……」

 大袈裟なほどびくりと震えた幼子の肢体が、腕の中でくたりと弛緩する。

 どうやら伊月の機嫌が悪くなさそうなのをこれ幸いと、嫌がられない程度に子供らしく減り張りのない体を撫で回していたキリエは、すっかり傷の癒えた舌を、上向いた顎先から差し出すよう晒された細い喉へと滑らせた。

「んっ」

 吸血鬼の魔力には、その柔肌へと牙を突き立て、生き血を啜られる〔花嫁〕を少しでも苦しませないよう、その気を紛らわせるために都合の良い性質が備わっている。

 吸血鬼が淫魔や夢魔の類と揶揄される由縁でもあるその性質を、伊月へと魔力を与える際、キリエはできる限り抑えていたというのに。

 その配慮を台無しにしたのは、他ならぬ伊月自身なのだから。さすがにこれは不可抗力だろうと、誰へともない言い訳混じりに、キリエは伊月の乱れた着衣へ手をかける。

「最後まではしないから」

 性欲の対象とするにはあまりに幼い子供の肌を暴き、どれほど淫らに触れようと、純然たる人外ひとでなしの良心はただの少しも痛まなかった。


「イクとき、咬んでいい?」

「どこを……?」

 さてどこを咬むのがいいだろうかと。キリエがちらり、伊月の様子を窺うと。しっとりと汗ばんだ体を淫らに震わせる幼子は、キリエにとって好ましいばかりの欲にまみれた目で、己に奉仕する浅ましい吸血鬼へと乞うていた。

「お前がいちばん、気持ち良くてたまらないところ」

 その快楽が、キリエにとっての快楽でもある。

 一方的にも思える奉仕は、実際その通りでありながら、ただそればかりのものでもない。

 どくどくと高鳴る鼓動をもっと近くで感じていたいと、華奢な体躯を押し潰し、キリエはその宣言通り、伊月が絶頂に達するまさにその瞬間を狙い澄まして、〔花嫁〕の熟れた肌へと牙を突き立てた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます