RE022

「増援として手配した自動人形オートマタの配置が完了しました」

 仄かな魔力の輝きを伴い、判で押したような魔導円に乗って現れた扶桑式自動人形オートマタの一体が、キリエにとってはわかりきった事実を伊月へ告げる。

「準備万端?」

「万事抜かりなく、整ってございます」

 キリエの腕の中で身悶えるよう、悩ましく体を揺すっていた幼子は、余り気味の魔力で血色の良くなった頬をキリエの首元へと押しつけながら、膜を張った涙に潤む双眸を細めた。

「それじゃあ、はじめてくれる?」

「承りました」

 意識的にはどうしようもない、身体マテリアルボディの生理的な反応。

 熱に浮かされたような声で扶桑へと応えた伊月が首をもたげ、視線を絡めたキリエに

「(手を滑らせるのはなしだから)」

 念話を介して伝わる伊月の魔力こえは、いたって平静で。そこに込められた、脅すというより念を押すような響きにキリエは信用がないな、と苦笑した。

「(心配なら、しっかり見張っておけばいい)」




「対天使、神性魔力の拡散防止措置、および戦闘領域の確保を目的とする特級封鎖を実行……交戦が予想される地域の隔離封鎖ロックダウンに成功しました。観測感度、異常なし。

 セカンドオーナーによる『封印』への魔力供給が強制遮断カットされました。神性魔力の励起を確認。四十秒後に会敵予定」

「……寝起き良いわね」

 そんなに早く出てくるのかと。扶桑の報告を受けて、伊月はキリエへとすっかり預けていた体を起こす。

 魔力制御にリソースを割きすぎて、正直なところ体を動かすのも億劫ではあったが。この期に及んで、キリエにべったりというわけにもいかないことは自覚していた。

 キリエにしてみれば、伊月が大人しくしている分には願ったりなのだろうが。

「襲が言ってたは?」

「指定の回収対象については、つい今しがたサルベージに成功しました。バイタルの状況を鑑みてティル・ナ・ノーグへ収容済み。あちらでの処置が終わり次第送還予定です」

「つまり『大丈夫』ってことね」

 人造王樹デミドラシルの権能は、時として死すべき運命さえも容易くねじ曲げてのける。

 襲から「できれば助けて欲しい」と頼まれていた、封印の要とその身を捧げた「先代土地神ひめさま」について。伊月が危惧していたのは、封印が解けた際、天使の間近にいるだろう対象あいてを〔扶桑〕お得意の転移魔導円サークル、その範囲内へと問題なく取り込めるかという、そのただ一点についてのみで。

 十年もの間、天使諸共封印されていたことによる消耗など〔扶桑〕にかかればかすり傷も同然だろうと。回収に成功した以上、なんの心配もしていない伊月は、そのうち顔を合わせることになるだろう先代土地神に対する興味をあっさり頭の片隅へと追いやった。


「来ます」

 いたって静かに、扶桑がそう宣言したことで、目の前に居もしない相手へと割いていられる余剰リソースが尽きたなくなったとも言う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます