RE021

「(もう無理っ)」

「(まだ入るよ)」

「(無理だってば……)」

 身体は幼子こども精神なかみは大人。

 そんな伊月が、未熟な体躯相応に小さな口腔を大人しくまさぐられていられたのも、粘膜同士の触れ合う心地良さが、気のせいや何かの間違いでは済まされないほどの量をだばだばと注がれる魔力に圧倒されるまでのことだった。

「(害にならないからってさすがに突っ込みすぎ……魔力がぶ飲みさせられて吐き気催すとかはじめてなんだけど……)」

 魔力を注がれはじめた当初、貰えるものは貰っておこうと、心配性なキリエの意図を汲んだ上で欲をかいてしまったのが伊月にとっての失敗で。

 魔力に対する影響力で勝る人外キリエから、どうしたって劣る徒人いつきへ。馴染ませるためのいとまさえ惜しむよう次から次に注ぎ込まれる魔力は、伊月がいくら「もういらない」と訴えたとして、キリエにその気が無ければ止まらない。

(この魔力量……余分なのがどこかで結晶化してないわけがない……一般病院でレントゲン撮れない体にされた……)

 終いには口移しでたらふく魔水を飲まされ、ようやく解放される頃には、これから一仕事こなすつもりでいるというのに、伊月はすっかりグロッキー。


「体がつらいなら、今日のところは止めておく?」

 本気で拒まれなかったのをこれ幸いと、気の済むまで伊月を魔力漬けにしたキリエがにっこにこでそんなことを言ってくるものだから、おちおち伸びてもいられなかったが。


「あとでおぼえてなさい……」

 過剰に注がれた魔力の手っ取り早い逃がし先として、冗談抜きに十センチ単位で急成長した髪を煩わしげに掻き上げ、未だかつて経験したことのない体内魔力の圧に喘ぐよう息を継ぎながら。「こんな思いまでして取り込んだ魔力を無駄にしてなるものか」と半ば意地になった伊月は、キリエから無理矢理押しつけられた魔力を少しの取り零しもないよう、片っ端から掌握していく。

 控えめに言って、徒人の手に負える魔力量ではなかったが。幸いにしてと言うべきか、魔力の繊細な制御に関して、伊月の技術と才能は「人並」を外れていた。


 ただし――




 そうまでして自らのものとした魔力が、一度ひとたび天使に触れてしまえばものの数秒で消し飛ぶ程度の「保険」でしかない事実を、伊月は知らない。

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