RE012

「(どこほっつき歩いてるの)」

 前触れもなく、するりと意識へ入り込んできた念話こえ

「(さぁ?)」

 メビウスクラインほどわかりやすく繋がれてこそいないが、わざわざ精神リンクを構築するまでもなく、ふとした拍子にお互いの思考がダダ漏れになることがあるほど深く結びついている双子の片割れ。

 自宅に居残っている鏡夜おとうとからの、遠回しな帰宅の催促を受けて。もうそんな時間かと、伊月は――隙あらばべったりと甘えついてくるキリエを、ぞんざいに押しやりながら――だらだらと居着いていた〔クレイドル〕の上で起き上がる。

「扶桑、頼んでたデバイスは?」

「こちらに。御注文通り仕上がっております」

 しとやかに距離を詰めてきた扶桑が伊月へと差し出す個人端末デバイスは、求めた機能の都合でどうしようもなく大きくなってしまう筐体を、いっそのこと実用品に押し込めた結果としての懐中時計型。

 子供が持っていたとしても違和感のない――とはいえ、けして安っぽくもない――デザインに仕上げられた簡易魔導器を首にくぐらせ、ペンダントのよう身に着けた伊月は、懐中時計の蓋にあたる部分を指先で軽くノックするようとんっと叩く。

 それを合図に立ち上がった端末由来の仮想端末バーチャル・コンソールは、個人端末デバイス本体を身に着けている伊月を取り巻くよう、幾つかの表示領域スクリーンくうへと浮かび上がらせた。

「よさそうね」

 薄い硝子板でも並べたような外観みため表示領域スクリーンに映し出された情報へ、ざっと目を通すだけ通してから。今度は払い除けるような指示動作ジェスチャー一つで仮想端末バーチャル・コンソールを消し去った伊月は、首からさげた真新しい個人端末デバイスを着ている服の内側へと押し込める。

「向こうに戻るの、ターミナルを経由した方がいい?」

「記録はこちらで書き換えが可能ですので、直接戻っていただいて問題ありません」

「なら、とりあえず『キリエ・エレイソン』だけ渡航したことにしておいて」

「承りました」

 そうしてようやく、伊月はキリエを呼ばわった。




「私は一人で戻れるけど。どうしてもって言うなら、送らせてあげてもいいわよ」

 どうする? と、広げて見せられた両手へ吸い込まれるよう身を寄せたキリエは、小さく脆い幼子の体を抱えて影へともぐり、ティル・ナ・ノーグの固有領域から皇国へと渡る。


 土地勘がさっぱりなうえ、目的の場所は管理者権限をもって閉じられていたが。曲がりなりにも「魔法使い」を名乗れるキリエに対して、その領域封鎖はせいぜい「最初から知りもしないものの存在に気付き難くなる」程度の効果しかなく。更に、そこへ伊月の御用聞きも兼ねて留め置かれていた扶桑式オートマタの誘導が加われば、伊月が思い描く場所へ狂いなく辿り着くことはキリエにとって、猫のよう気紛れな〔花嫁〕の機嫌を取るより余程容易いことだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます