RE011

「私の場合、自家生成できる魔力が少なすぎるってだけだから。個人端末デバイスに転換炉を仕込んで使うって手もあるわよね」

 ふと、閃き顔でそんなことを言い始めた伊月に対して、今度はキリエが目を眇めて見せる番だった。

「あんな玩具より、私の方が上手くやれるよ」

 ドォルやオートマタとして仕上げられる人工生体へ、魔力炉の代替品として組み込まれる転換炉。

 その利便性に疑義こそないが、日常的な使い勝手を突き詰めた結果として、実戦レベルではというのが、キリエの認識。

「私にマーキングしようって?」

(それは、もうしてる)

 魔術的な匂い付けマーキングに関しては、吸血しょくじのついでにこれでもかと魔力を注いでいるのだから今更だと思いながらも。ようやく持ち直しつつある〔花嫁〕の機嫌を損ねてしまわないよう余計な言葉を努めて呑み込み、キリエは伊月が見ている目の前で、その手に鋭く尖った己の牙を滑らせた。

「ちょっと……」

「すぐ、終わるよ」

 傷付いたアストラルボディから溢れ、たらりと腕を伝った鮮血は、キリエが伸ばした指先から伊月の胸元へと落ちていく。

 徒人のそれを模した張りぼての体アストラルボディと同様に、キリエ自身の魔力が形を変えているに過ぎない真っ赤な魔水は、幼子のなめらかな肌をキリエの思うがままに這い回り、所々その色を変えながら、徐々につるりと硬化していった。




 丁寧に磨き上げた宝石でも張り付けたよう、鮮やかに描き出されたしるしは、血色の薔薇とそれを囲む黒い茨。

「もしもの時は、ここから魔力を引き出して使えばいい」

 これでもかという主張の激しさにさえ目を瞑れば。それは確かに、万が一の「保険」として充分過ぎる――ともすれば過剰なほどの――魔力を蓄えている。

 混じり気のない徒人ただびとでありながら、皇国で妖絡みの荒事を生業とできるほど魔術に精通した伊月は当然、結晶化した魔力マテリアを元の魔力へと解く術を心得ていた。

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