RE009 ラドゥ

 閉鎖式〔クレイドル〕の内側を満たしていた魔水が環境魔力エーテルへ還元されるとともに、透明なハードカバーの一角が、どろりと溶け落ちるようにして開く。

「ラドゥさまがおいでになるそうです」

 開放された〔クレイドル〕の外へと出た黒姫奈伊月は、扶桑が次々と差し出してくる服へ順番に袖を通していくことで、人前に出ても恥ずかしくない程度の身仕度を調えた。


「キリエ」

「…………」

「いつまでそうしてるつもり?」

 八坂伊月の身体が横たわっている〔クレイドル〕。その筐体にべったりと張り付いて自分からは動こうとしないキリエを、黒姫奈伊月が無理矢理に引き剥がして中庭へ連れ出すと。そこへタイミング良く、地面すれすれに浮かび上がる魔導円サークルを先触れとして、件の来客――キリエ・エレイソンこと、ヴラディスラウス・ドラクレアの実弟であるラドゥ――が転移してくる。


「お久しぶりです、義姉上あねうえ。メビウスクラインと伺いましたが、驚くほどお変わりありませんね」

「義体よ」

 芝居がかった仕草で――けれどそれが、嫌味なほど似合ってもいる――一礼したラドゥは黒姫奈伊月に勧められるがまま、中庭の一角に用意されたテーブルセットへ腰を落ち着けた。

「それにひきかえ、兄上は……」

 兄とは違い、社交慣れしたラドゥの視線がようよう物言いたげな色を孕むさまを見て。眠り顔が張り付いたようだった顔にはじめて表情らしい表情を浮かべた黒姫奈伊月は、その言及を待っていましたととばかり、片手にぶら下げるよう持っていたをガーデンテーブルの上へと放る。

「かわいいでしょ」

「仮にもですよ」

「ドラゴンなんて見たことないもの」

 知らないものは真似しようがないと嘯く声は、楽しげに弾んでさえいた。

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