RE005

 世界を形作る大樹の若木。

 真性王樹の模造品まがいもの


 洋上の人工島ティル・ナ・ノーグに根を張る変わり種の人造王樹デミドラシルが、自らの王に応えて皇国の片田舎へと送り込んだ、その使。かつて――伊月が黒姫奈として生きていた頃――のキリエに輪を掛けて表情に乏しく、作り物のように美しい妙齢の女は、出来損ないのホムンクルスを筐体うつわとする汎用人型端末ヒューマノイドインターフェース、扶桑式自動人形オートマタのフラッグシップモデル。

 扶桑と、人造王樹そのものの名を冠する自動人形オートマタの向こうに、わかりやすく頭を抱えた襲の姿を認めて。キリエの真贋に関する証明はこれで充分だろうと、伊月は判断する。

 そして――

黒姫奈わたしの権限を移すように言って」

 もののついでとばかり、キリエに強請った。


「扶桑――」

 腕の中の幼子と交わった視線を断ち切ることさえ惜しむよう、呼びつけた扶桑を一顧だにしないまま。キリエは二つ返事でそれに応じる。




「マキナだ」

 ヴラディスラウス・ドラクレアキリエ・エレイソンによる、端的を通り越し、いっそ言葉足らずな下命を受けて。扶桑式自動人形オートマタの一体――その筐体ボディを、洋上の人工島から遠隔操作する扶桑樹――は、所定の手続きを経て、姉妹樹である〔倭〕の統合情報領域ライブラリへと接続、取得したヴラディスラウス・ドラクレア周辺の環境ログを遡ることで、行動選択に必要な情報を取得した。

「凍結中の上位権限を解放リリース

 メビウスクラインに伴う個体情報パーソナルデータの更新を完了しました」

 刹那で終えた処理内容を周知のため言語化。音声による出力の後、ヴラディスラウス・ドラクレアの腕に抱えられた幼子――黒姫奈の生まれ代わりやさかいつき――へと、皇国式の礼儀作法に則りこうべを垂れる。

「お帰りなさいませ、お嬢さま。お戻りを心よりお待ち申し上げておりました」




「さすが上級権限持ち。話が早い」

 その声に喜色を滲ませながら。何気なく持ち上げられた幼子の手に、さらりと頭を撫でられて。

 キリエはふと、それまで意識すらしていなかったを自覚した。

「……もう、いい?」

「うん?」

 なんのことだと小首を傾げる幼子は、おあつらえ向きに、その身体をキリエが紡いだ魔布で覆われている。

 だから、大丈夫。

 問題なく耐えられるだろうと。両手に抱えた幼子ごと背中から倒れ込むよう、足元の影へとその身を沈めた。

「ちょっ――」


 ――どぷんっ。


「(いきなり、何!)」

 諦めの悪い人外ひとでなしに執着され、まっさらな生まれ変わりを阻まれた、哀れな魂。

 その証として現れる非実体の鎖メビウスクライン。魔術的にこの上ないつながりを介して流し込まれた伊月の魔力は、キリエの中で大気を震わす言葉こえより余程鮮やかに、偽りようもなくその感情おもいを響かせた。

「(喉が渇いた)」

「(はぁっ? ……ちょっと待って。この体で本気の吸血なんてされたら――)」

 その魔力こえに、触れることさえ躊躇われるような拒絶の色はない。

 それならば、許されたも同然だと。キリエは幾許の躊躇いもなく、幼子の柔い肌へと牙を突き立てた。

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