第177話 コカトリス
「派手に行けー!」
エーシャが放った赤い光は、大きな炎の玉へと変化しながら天高く舞い上がっていく。
人ほどの大きな火球がコカトリスの頭上に届くと弾け飛んだ。
弾けた炎の欠片が矢のように群れへと降り注ぐ。降り注ぐ危険な熱に危険を察知すると群れが散り散りに散開していった。
逃げ遅れていた数羽のコカトリスが炎の串刺しとなり体を燃やしたが、ほとんどが地面に突き刺ささり地面を激しく焦がす。草の焼けた臭いが辺りに立ち込め、コカトリスの警戒と怒りが上がっていった。
「あちゃー! ほとんど当たらなかった」
エーシャがヘッグの上で悔しさを露わにした。
炎の矢など見飽きているはずのキシャとウルスが、その矢の威力に絶句する。
なんだ!? この
キシャとウルスは白い鳥に跨る隻眼の
「むむぅ、ちょっと失敗かな」
「クァア~」
「何よ! 仕方ないでしょう、避けられちゃったんだから」
エーシャがヘッグにふくれっ面を見せた。
二筋の光は真っ直ぐにコカトリスの
両手に刃を光らせ左右からその敏捷性で斬りかかった。
キノの半分はある鋭利なくちばしが串刺しにせんと迫っていく。
カズナは刃を
飛び込むカズナに横からくちばしが突っ込む。
キノは逆手に持った白銀のナイフをクロスさせ、
ガキッツ! と衝突音を鳴らすと勢いのまま後ろへくるりと回転し、衝撃から逃れ、再び
キノの金色の瞳は真っ直ぐに
じりじりと互いの間合いを測り、キノは白銀のナイフを構え直した。
カズナを阻止せんと突っ込むくちばし。
カズナは体を反って避ける。
くちばしが眼前をすり抜けるとそのまま、つま先でコカトリスの顎をカウンターで蹴り砕いた。
下からの蹴り上げに粉砕音を鳴らし、コカトリスの頭は跳ね上がる。
「グボォォォオ⋯⋯」
顎が開かず思うように呻きを上げられない。
自慢の攻撃が封じられ、その目に困惑が浮かんでいる。
「そらぁっ!」
ゴヅッ
ウルスの気合と共に大槌が守護者の脳天を砕いた、顎を砕かれ、脳天を砕かれ、地面へと崩れ落ちていく。
倒れ込むコカトリスの首元をカズナの刃が掻き斬り、地面を赤くしていった。
「ヌシ、兎か? 初めて見るがやりおるのう」
ウルスの賛辞に一瞥だけして、
「んじゃ、こっちをやるかのう」
散り散りになっていたコカトリスの群れが、
「させるか」
道先にウルスが立ちふさがった。
勢いの増す何羽ものコカトリスが、道に立ちふさがる邪魔者を吹き飛ばしにかかる。
「ウルス! 無理だ!」
脇腹を押さえながらキシャが叫ぶ、何羽ものコカトリスが邪魔なウルスへと激しい足音を伴って突っ込んで行く。
大槌を横に構え、いつでも吹き飛ばせる態勢で待ち構える。
やらせない。
吹き飛ばす。
互いの思いが交錯する。
一歩も譲らぬと体中に力を込めていく。
吹き飛べとくちばしを鈍く光らす。
目前に迫るコカトリスをじっと睨み、大槌を握る手にさらに力を込めると、ウルスの二の腕が隆起する。
横から小さな影がウルスへと飛び込んだ。
「あのよ、あのよ、ヌシはバカなのか? 盾も持たねえであんなの、やりようねえだろうが」
法衣を纏うドワーフがウルスの横に飛び込んだ。
ガツっと地面へ力強く大盾を突き刺し構える。
「ドワーフ! 頭を下げろ!」
その叫びに反射的にふたりは頭を下げた。
ブオンという風切り音が頭の上を過る、前を行くコカトリスの長い首が、ガクンと後ろに反る。
眉間に矢がめり込み、コカトリスの足元がもつれ横へと倒れていく。
それを確認するとハルヲが漆黒の小さき剛弓を再び構えた。
コカトリスは横たわるそれを簡単に飛び越え、さらに迫る。
ユラは大盾を構え直し、体中に力を込めていく。
ガジャッっと激しい衝突音。
大盾とくちばしが激しくぶつかり合う。
体で盾を押さえ、押される足に力を込めて、押し返していく。
ウルスはユラが押さえている横から大槌を振りぬいた。
鋭い鎚先がコカトリスの柔らかな脇腹を突き破る。
ウルスの鋭い振りに吹き飛ぶ間もなく、皮が破れ、内臓が潰れていった。
「きったねえ! 吹き飛ばせや!」
「うるさい! やいのやいの言うな! ほれ、次来るぞ!」
返り血を浴びたユラがウルスを睨みつけた。
残り五羽。やっと半分か⋯⋯。ウルスは頭の中で嘆息し、また構え直した。
コカトリスが一気に向かって来る。
低い姿勢を取り血走る目は殺気を帯びていた。
軽やかに地面を蹴るいくつもの音が迫る。羽をしっかりと閉じ自身を矢と化した。
体ごと飛び込む気か。
「構えろ!」
ウルスが叫び構える。
「わかっとるわぁっ!」
ユラが叫ぶ。再び全身に力を込め、盾を強く握りしめた。
「すまん遅くなった。キシャ大丈夫か」
大きなバックパックを背負うキルロがキシャの背後から声を掛けた。
脇腹を押さえて佇む姿に傷が深い事がわかる。
「兄貴を頼む」
それだけ言うと
「キシャ、こっちへ」
「すまねえ」
「【
キシャを寝かしヒールを掛けていく。思った通り傷が深い。
離れた所から金属音や咆哮が耳へ飛び込んでくる。
大丈夫だ。
落ちつけ。
みんなが対応している。
キシャは金色の光球に目を見張った。
手を当てていた傷が、いつの間にか塞がっている。出会った事のない治癒力に驚きを隠さなかった。
「すげえな。あんた
「いや、鍛冶師だ」
寝ていたキシャをゆっくりと起こしながら答える。
キシャは体を軽く動かし、脇腹に問題のない事を確認し立ち上がった。
「完璧だ」
「完璧ではないさ。これ飲め、無理はすんな」
バックパックを下ろし、回復薬の入ったアンプルを渡した。
キシャを送り出すとキルロも剣を握り、前線へと駆ける。
「キルロ! こっち!」
ハルヲの声に足を止めた。
その声から焦りが分かる。声の方へと急いで駆け寄るとウルスを引きずるハルヲの姿が目に入った。
引きずられるウルスが腹の真ん中から大量の血を噴き出している。
「【
詳細など確認している場合ではなかった、すぐにヒールを掛ける。
光球がなかなか落ちて行かない。
大丈夫。
その思いをキルロはウルスと自身に言い聞かせる。
ハルヲがバックパックを拾い、キルロの元へ置いた。
「あとは宜しく!」
ハルヲは再び前線へと駆け出した。
「ゴフっ」
ウルスが口から血溜まりを吐き出す。もう大丈夫だ。
光球がゆっくりと落ち出し、ウルスの意識がゆっくりと覚醒していく。
「なんじゃ、天国のくせにぱっつんぱっつんのお姉ちゃんはいねえのか⋯⋯」
「残念だったな、お姉ちゃんはまた今度だ。起きられるか?」
腹を触り傷が治っている事に驚愕の表情を浮かべる。
「ヌシらのところはびっくり人間の集まりか?」
真剣な眼差しをキルロに向けた。
隻眼の
常識の通用しないパーティーにウルスは困惑しかなかった。
「?? 普通だろ?」
キルロの答えにウルスは首を傾げるだけだった。
「ごめん! ユラ! 少しだけ時間ちょーだい!! 【
コカトリスの攻撃をひとりでいなすユラへ、エーシャが叫ぶ。
エーシャ手が激しく青く光っていく。
杖で殴り、盾で受け、ウルスが一時離脱を余儀なくされた前線を、ユラがひとりで支えていた。
コカトリスの群れが一斉にユラを襲う。ひとりで押さえるのには無理がある。すぐに限界だ。
いや、体力の限界はすでに来ている。肩で息をしながら気力で前線を支えていた。
「ユラ! 下がって!」
エーシャの叫びに、ユラが後ろに跳ねる。
エーシャから放たれた青い光はコカトリスの群れの足元で冷気の塊となり、その瞬間足元から何本もの氷の針が飛び出し、コカトリスの群れを襲った。
『グギャァ! グギャァ!』
突然足元から現れた氷の針に混乱の声を上げるとさらに群れが混乱していく。
人の足ほどの大きな針が足を、腹を、突き通し、コカトリスの動きを止めた。
「行くよっ!」
「あいよ!」
ハルヲの掛け声にユラとふたり串刺しの群れへ飛び込んだ。
氷の上にボタボタと流れ落ちていく血、動けないと見るやハルヲが剣を握り、ユラは杖を振る。
首を斬り落とし地面へ首が落ちるとゆっくりと体は横たわる。頭を吹き飛ばすと体ごと地面に叩きつけ、次々に倒していく。氷の針が突き通った所で勝負は決していた。
「どうよ、ヘッグ! 見た? あんたの天敵倒してやったぞ」
「クァアア!」
エーシャがヘッグの首を撫でながら胸を張る。
コカトリスの群れが地面へと沈んでいった。
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