第102話 追いかけっこ
何から話せばいいのか?
話したいと言っておきながら言い淀んでしまう。
マナルとカズナの穏やかな表情を前にして、言葉を選ぶためにグルグルと思考が空回る。
「その、なんだ、じつはこの間二人揃って死にかけちゃって」
キルロが首に手を回して言いづらそうにすると、二人とも目を丸くする。
笑ってごまかそうと乾いた笑いをするも、二人の表情は驚きのまま固まってしまった。
ハルヲはまたバカな事言ってと呆れ顔で手を額にやり、宙を仰ぐ。
まったく、ものには言い方ってもんがあるだろうに。
「まあ、ほら、もう元気だからそれはもういいんだ。うん。でだ、そのやられちまった原因ってのが、でっかいケルベロスにすっ飛ばされたんだけど、敵がどうもそのケルベロスを操っていたみたいなんだよ。その操り方ってのが、カズナの操り方とそっくりでさ。なんかこう心当たりとか些細な事とか、なんでもいいんで教えてはくれない、かな? ってね⋯⋯」
語尾に力はなく尻すぼまって行くと、キルロは上目でカズナ達を覗き見た。
一族の秘密だもんなぁ、難しいよな。
カズナとマナルは顔を見合わせると、穏やかな表情のままキルロへ視線を向ける。
「あんたには世話になっタ。ここでの生活に必要ないシ、あんた達が悪用しないと信じていル。心当たりといえばやはり
カズナは穏やかに答えてくれた。
煎る。単純だがそこに目を向けることがないほど単純過ぎる。
聞いてしまえば簡単な話。
ただ、そこに辿りつけるかは別問題だ。
「煎る時間ってやはり繊細なのか?」
「モチロン。そうそう簡単に見破られるとは思えなイ」
「だよな。きっと長い年月をかけて、確立したんだよな」
カズナは黙って頷く。しかし、あれはまさしく
それも、ただそのまんま流用したってわけじゃない。
ただ寝かしてしまうカズナ達の使い方と、ヘラヘラと襲ってきたヤツらが同じとは到底考えられなかった。
マッシュあたりにやはり投げて詳しく調べて貰うのが良さそうだ。
「あなたたちの踊らせ方? って、いわゆるテイムとは違うわよね? 何が違うのかしら」
「私達の術ハ後ろを守り、前に現れた者を倒すというその一点だけでス。ただ一人の例外ハ術者だけデ、あとの者は敵味方関係なく前にいる者は倒しにいきまス」
「術者ってのは、この音を鳴らす者って事か?」
マナルもハルヲに穏やかに答えてくれた。それに頷きながらキルロは、ポケットから奪った打器を取り出すと“コキ”と音を鳴らす。
その瞬間カズナとマナルは驚愕の表情を浮かべ、厳しい顔を見せる。
それは忌みすべき道具が一族の秘密が悪用されていた事の確証。
そんなバカな、そんな思いに言葉を失っている。
その姿に二人の困惑と憤りが容易に見て取れた。
「そうダ、オレ達は歯で鳴らすガ同じ音ダ。こんな事ならもっと早く伝えておけバ良かっタ」
カズナが悔しさを滲ませる。
しかし、そこは悔やむべき所ではない。おいそれと話せる事ではないし、仕方のない事だ。
「でモ、ケルベロスってお二人がやられてしまうくらイ、強いのですよネ。私達の術ではそんなに強いモンスターを踊らす事は出来ませン」
マナルは小首を傾げながら困惑した様子を見せた。
確かに【果樹の森】を囲っていたモンスターのレベルは低かった。しかし、あのケルベロスの動きは【果樹の森】のモンスターと酷似している。
今思い出してみても、ヤツらはケルベロスの前には決して出て来ないで、後方でずっと固まっていた。
同じだが違う。
「ハルヲどう思う? 一緒だけど違うこの矛盾」
ハルヲも同じ所に引っ掛かっている。顎に手をやり逡巡していた。
カズナとマナルが神妙な面もちでこちらを見つめている。
秘密を悪用された後ろめたさを感じているのだろう。
「残念だけどやっぱり術は盗まれてしまったと思う。ただ、それに手を加えて何かしらの方法で強化というか使い勝手良く改良した。と思う」
ハルヲも歯切れは良くないが、キルロと同じ考えのようだ。
盗まれた術を応用、しかも結構短期間に。
「短期間で解析出来る程のキレ者が潜んでいるってことなのかな。やっぱりここから先は投げないとダメだな。カズナが言っている
「そうね。そいつを捕らえる事が出来れば、てっとり早いわね」
「犬、追うのカ?」
「イヤ、パーティーとしては追わない。けど、マッシュあたりが多分追う事になると思う」
「オレも追いたイ」
「気持ちは分かるが、裏に通じるヤツじゃないと追えないと思う。だからオレらもマッシュに託すんだ。カズナも託してくれ。何か分かったら逐一報告するから」
ギリと唇を噛む音が聞こえそうなほど、カズナは口を堅く結んだ。
相手も手練れだ。慣れない人間が手を出した所で到底たどり着かない。ただただ何も出来ないもどかしさに、潰されないように願う。二人には二人にしか出来ない事をやって貰いたい。この先この生活を続けるとなれば、たくさん出てくるはずなのだから。
「いろいろありがとう、とても助かったわ」
「有益な情報をありがとう、ハルヲの言った通り助かるよ」
未だ悔しさを滲ますカズナと、笑みを湛えているマナルに感謝を告げる。
協力を惜しまず、話してくれた二人に報いるためにも、隠れているヤツをあぶり出してやりたい。
「私達にお手伝い出来る事があればいつでも声を掛けて下さイ」
「うん。ありがとう、またきっとお願いする事が出てくると思うわ」
カズナもマナルの言葉に頷く、キルロは窓の外を眺め二人が一緒に進んでくれるのが誇らしくもあり素直に嬉しくなった。
窓の外で子供達がキノといつの間にか追いかけっこして遊んでいた。
あ、そうか!
キルロは二人に問いかける。
「なぁ、早速お願い事していいか?」
「エ?! あ、はイ。私たちで出来る事であれバですけド……」
マナルは突然の申し出に少し驚くが、快く返事してくれた。
マナルの申し出にキルロは笑顔を浮かべ口角を上げると、いきなり立ち上がって両手を広げた。
ハルヲを含めた三人が小首を傾げその様子に戸惑いの色を見せる。
「うん、マナルとカズナにはぜひ手伝って欲しい。この裏通りに学校をつくろうぜ!」
「えーっ?!」
『エー?!』
傾げた小首が凄い勢いでキルロの方へと向きを変える。想像の斜め上からの提案に三人は目を丸くしどう捉えればいいのか混乱した。
「そこまでびっくりしなくても。子供達がもっと遊べる場所あってもいいだろう」
「学校って勉強をする所じゃないの?」
「うん? まあ、そうだけど亜人もヒューマンも関係なく遊べればいいじゃん」
「いいけどさ、ねえ?」
ハルヲは自分の困惑をカズナとマナルに向ける。
向けられた二人も混乱していた。
相変わらずコイツは思いつきだけで生きているな。
想像がつかない。
その一言につきる。
なんともいえない複雑な心持ちだ。
「悪い話じゃないと思うんだけどなあ」
「申し訳なイですが、想像がつかないのですが……」
マナルから困惑の表情が抜けない、そこまで困惑させるつもりがなかったキルロが面食らってしまった。
それでもここにはきっと必要になる、学校に行って遊んだり、字を学んだりできればこの先きっと役立つはずだ。
エレナみたいな子を減らす事も出来る。
偽善といわれようがどうしようが知った事ではない。
やれるならやればいいそれだけだ。
やれる環境がここにはある。
「ま、反対ではないんだろ。どうしていいか分からないだけなら作りながら考えようや。カズナとマナルは
キルロは穏やかに真意を伝えた。
三人は顔を見合わせどういう表情がこんな時は正解なのか分からず、微妙な表情を浮かべているが反対という事ではないようだ。またネスタとヴァージが忙しくなるな。
「何というか、こう思いつきで言ってホントにやっちゃうからね。コイツは。まあ、諦めていい学校を作れるようにお互い頑張りましょう」
「はイ、どうしていいのか分かりませんが、ネスタさんやヴァージさんと相談しながらいろいロと考えてみまス」
「うん、頼むよ」
ネスタと話したていた方向とはちょっと違うかな?
でも、カズナやマナル、ネスタ達に任せれば悪い方向にはきっと行かないはず。
外に目を向ければキノと
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