25話:指名依頼クエスト『砂漠の臆病者 サンド・ライノスタートルを狩猟せよ!』#5
サンド・ライノスタートルの縄張りエリアから離脱し、俺はそのままエリア1の方へと足を運んだ。
「……はぇ?!」
エリアの中央に位置する小さな湖とヤシの木が並ぶ場所を見て思わず絶句する。
「ホワイエットドラゴン……!」
首を地面にもたげてゴソゴソと、ホワイエットドラゴンが夢中で何かをしているようだ。
すかさず俺は擬態スーツの準備と共に、近辺の茂みに身を隠す事にした。
「何をしているんだ……?」
まさかあのモンスターがこの場所まで出没するとは……。その事まで俺は考えてはいなかったどころか、ある意味で意表を突かれたイレギュラーな出来事に遭遇してしまった事になる。
「炭鉱夫の人達は大丈夫なのか……?」
俺はホワイエットドラゴンの習性で考えられるならば。十中八九で人を食っているのではと思った……。
「早とちりは命取りだ。ここはあいつが去るのを待つことにしようか……」
そのついでに相手の観察をすることを考える。情報は多くて良い。これはタケツカミさんに教わったアドバイスの一つだ。
「ホワイエットドラゴンの平均的な全長は確か12メートル70センチで。全幅が6メートルだったかな。頭の高さは5メートルだっけ……」
あまり勉強していなかった事が徒となってしまっていることに対し、俺は自分の事が嫌いになりそうになっていた。
「それにしても平均的な大きさよりは小型だな……」
もしかするとあいつは幼体なのだろうか?
ふと、
「ん、何だ? 辺りを見回してキョロキョロと……」
首を上げて辺りを見回し何かを探しているようだ。スンスンと鼻をならしている所を見るかぎり、臭いにつられてやっているようにも見える。
「まっ、まさか……俺?」
何故そう思ったのかは旨く説明できない。本能的な直感で感じたと言うべきなのだろう。ただ一つ分っているのは。
「もしかすると……あれを試してみるか……」
俺は茂みの中でゴソゴソとモンスターの餌を用意し始めた。
「うん、これであいつが反応したら確定だ」
すかさずこちらの気配を悟られないようにしながら、俺は手にしているモンスターの餌を放り投げ込んだ。
――ボトッ。
『キュウリュリュ?』
――ツンツン。ヒョイ。バクン。
『グルルル……キュウリュリュ?』
――キョロキョロ。
『キュー!』
「なっ、なんだあの甲高い鳴き声は……」
まるで親を探しているような声にも聞こえるような気がするが、そうじゃないと思いたい気もする。
「いやぁ……俺、ややこしい事をしてしまったかなぁ……」
現に親を探すような素振りをなお続けているホワイエットドラゴン。なんだか寂しそうな哀愁漂う立ち振る舞いをしているのがいたたまれない。
「人間の俺が出ても餌食になっちゃうし。うーん」
そう考え込んでいると。
――バッサッ。バッサッ。バサンッ、バサンッ。
『キュウウー!』
「はぁ……どっか行ったな……」
命がどうなるかの瀬戸際をまさかこんな所でまた経験することになるとは。そう思いながらホワイエットドラゴンが空高くいずこに去って行くのを見送り、茂みから身を出してそのままエリアの中央へと足を運んだ。
「あぁ……なるほどな……」
ホワイエットドラゴンが首をもたげて夢中になっていた理由が分った。
「ただの土いじりをしていたんだ……」
これで分った。あいつは幼体のホワイエットドラゴンだ。縄張り意識が希薄かつ、まだ幼いが故の遊びたい盛りでこんな事をしていたのだろう。
「モンスターの餌でああなったんだからうなずけるぜ」
まぁ、俺もたまに元の世界にいる母親の飯がまた食いたいなって思う事はあるし。分らないことはない。俺はカレーが食べたいな……。
「さてと。とりあえず素材回収でもしますか」
ホワイエットドラゴンが土いじりをしていた事もあり、お目当ての物は直ぐにでも集めれる状態にある。
「うん、粘土はこれくらいでいいな。あとは道中で拾ったサンドリーパーと火薬を混ぜて調合して粘土爆薬にしてできあがりっと」
サンドリーパーとはその名の通り、物体にぶつけるだけで空気中に火花が迸るという変わった激辛唐辛子で。コイツを使った料理はとにかくマニアの間ではポピュラーな食材となっている。今回のようにその性質を生かして武器に転用する事も可能で、ハンター達の間では愛用品の一つとなっている。
「あとはそうだな……草食モンスター用の餌を用意しないとな」
それも我を忘れて貪るように食べてくれるようなモンスターの餌を作らないとな。
「ヤシの木の葉っぱとか食べるかな……」
てかこの世界では砂ヤシの木だっけ。まぁ、ややこしいのでヤシの木と呼んでおこう。
「あとは木の実から採れるジュースと果肉を使おう」
葉っぱはともかくだけど。これでも俺が食べられそうな物になりそうな感じがする。
――15分後。
「よし、できた」
俺特製の草食モンスター用の餌が完成した。形状は草団子みたいな形にしてある。
「ジュースの香りで爆薬の臭いはかき消されているし。この大きさなら一口で飲込むだろうな」
果肉の甘みも相まっておそらくサンド・ライノスタートルは喜んで食べるはずだ。
「こういう物で倒すのはあまり良い気分じゃないけど。仕事は仕事だ。このクエストを成功させないと明日からまた安宿探しの毎日を送ることになる」
それだけは死んでもごめんだ。それに、
「ミステルさんを失望させるような事はしたくはない」
この気持ちは何があってもぶれることはないからな。
その思いと共に俺はエリア9へと向かった。
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