23話:指名依頼クエスト『砂漠の臆病者 サンド・ライノスタートルを狩猟せよ!』#3


――エリア10『切り立つ崖の下にある小さな砂漠』


「……あつい」


 古びたボルトアクションライフルを両手に持ちながら、俺は擬態スーツを身に纏い、匍匐の姿勢のままターゲットが現れるのを待っていた。


 擬態スーツとは読んで字の如く、周囲の環境に溶け込むために生み出された。ハンターにとっては必需品の装備である。この装備を使うハンターの大半は俺みたいなスナイパーがメインだろう。あとは機動力で相手を攪乱、または陽動でターゲットを追い詰めるのを得意とする遊撃手が好んで使ったりもする。ようはゲリラ戦法が好きなハンターが好んで使うと言うべきかな。


「これで狙撃がうまくいくといいな……」


 今回の狩猟にあたり、自分の愛用する銃に特殊なカスタムパーツを取り付けていた。


「サプレッサー。結構な値段したな……。カミルさんにぼったくられた気がするぜ」


『まぁ、何にも手を差し伸べないっていうのは武器職人の名に傷がついてしまうからな。ほら、これは私からの餞別だ。まぁ、いわゆる残り物の在庫処分といった所だ』


「だからって2万ダラーもぼったくってくるなんてありえねぇわ」


 こちとらまだ新米の駆け出しハンターだ。そんなに大金を持っている訳もなく。


「うぅ……このクエストの報酬でミステルさんに立て替えてもらった代金を返さないとな……」


 てか、そうなるならいらないと断れば良かったのだが。


『ふむ。ボルトアクションライフルを使う上でサイレンサーは切っても離せない必需品だ。ここは私が君の為に代金を肩代わりしてあげよう』


 ミステルさん。あなたのそのきめ細かな気遣いに感謝しか出てこないです……! そうなったら断れないじゃないですか……。


「……あれは?」


 ふとエリア11に繋がっている通路から黒い影が現れた事に気づく。目視では判別できない。


「……あれはまさか……!」


 双眼鏡を片手に遠くに見えているそれを確認し、俺は目を見開いて驚く。


「あれがサンド・ライノスタートル……」


 俺の全身に緊張が走る。武者震いだ。


 サンド・ライノスタートルの全体の姿はサイ。表皮をカバーするようにして至る所に亀の甲羅が張り付いており、


「背中にでっかい甲羅が乗っているな……。あれは狙って撃って良い場所じゃなさそうだ」


 総じて言うならば重装甲型のモンスターだ。


「確かあいつの口は亀の口の形をしていて、首は伸縮自在に伸ばす事ができるんだったな。中くらいの高さの木に生えている葉っぱとか木の実を食べたりするんだっけ」


 性格は臆病と調べはついている。あとは実際に見て得た情報とすりあわせることにしよう。


「にしてもノッシノッシって歩くんだな。これじゃあ亀そのものだ」


 時速は5キロ程度だろう。そんなに早く身体を動かせないようだ。これなら簡単に狙撃ができそうな。


「有効射程距離を加味すると距離は200メートル以内の方がいいだろうな。風向きは……右5メートルで吹いているな……」


 直ぐ側に崖があり、そこにあれられた風がベクトルを変化させてそのような風向きに吹いているのだろう。風がUターンして吹いているとも言えるな。


「使用弾薬は貫通弾5発でいこう」


 あと15発は正面切って戦う時に残しておく。全弾を撃ち込みたい気持ちでいっぱいだが。後々何が起きるか分らない。なので冷静に考えて戦術的な意味合いも兼ねた運用法で使う事にした。


「狙いを済ませて……」


 照準器については。元から着いているアイアンサイトを使うことになる。スコープは良い物を使いたいという俺なりのポリシーがあるからだ。


「今しばらくはこれで我慢だな……」


 逆に考えてみると。スコープをつけた場合。接近戦時に扱いづらくなってしまうデメリットがある。アイアンサイトの方が優位になるな。


「突スナみたいな事にならないように立ち回らんといけないな」


 そう考えながら標的の動きに注視し続ける。そろそろ射程圏内に入りそうだ。


 そして1分後。


「…………」


 銃をしっかり構え。銃床に頬をしっかりと添えて覗く目に全神経を注ぐ。あとは引き金を引いて敵に先制攻撃を仕掛けるだけだ。


「右5メートルの弾着差があるからここくらいだな」


 銃口をターゲットから少し右に向ける。あとは風の妖精がイタズラをしない事を願うことにしよう。


「ちゃんと射撃練習はしたんだ。練習通りにやれば旨くやれるさ」


 不安で緊張する自分を勇気づける為にそう呟く。そして。


「今だっ!」


 すかさず引き金に添えていた指をクッと動かした。


――バシュ!


『…………』


「あぁ……外れた」


 初段の一撃は失敗。ターゲットの横を通り過ぎる形で通過してしまったようだ。すかさず気を取り直してコッキングレバーを動かして次弾を装填する。


――バシュ!


『ビィユッ!?』


「当った!」


 着弾した箇所は分らない。だがそれでも相手を驚かす程度の一撃は与えることに成功したようだ。すかさずその場で暴れてパニックを起こしているターゲットに次弾を撃ち込んだ。


『ビィイイ!!』


「まだこちらの気配に気づいてないな」


 必死にこちらの存在を把握しようとサンド・ライノスタートルが辺りを見回している。


――バシュ!


 居場所の分らない相手に狙われて襲われているという恐怖を感じ、サンド・ライノスタートルは姿勢を低く取りながら防御態勢で威嚇している。


「あの甲羅を狙って撃つとどうなるんだろう?」


 狙撃に使える弾は後1発だけ。すこし勿体ないけど相手の背負っている甲羅にめがけて狙いを定めて引き金を引いた。


――チュウイン!


「なるほどねぇ……。あれに貫通弾をあてても火花散らしてはじかれるだけか……」


 これだと通常弾でも相手にダメージを与えられそうにないなこりゃぁ。


「バレてなさそうだな。コソコソと回り込んで位置を変えようか」


 事前に下調べ済みのエリアなので。ここでの最適な狙撃ポイントは大体把握している。


 そう思ってムクッと起き上がり、姿勢を低く取りながらポイントの移動をしようと思った。


『ビュウウウウウウ!! ブルルゥッ!!』


「あぁ……くそ見つかった……」


 さすが臆病な性格のモンスターだ。立ち上がっただけでこちらを見つけてくるとは。いや、擬態スーツが目立ちすぎたのか?


「うぁ、こっちに走ってきた」


 俺を見つけるなりサンド・ライノスタートルが時速15キロくらいの速度でこちらに向かって突進攻撃を仕掛けてきた。


「考えろ……!」


 距離は100メートルはある。だが、ここで迎撃をしていては無理がある気がする。


 とりあえず横一直線に向かってダッシュする事にした。だがしかし。


「はっ、はっ、はっ、ほっ、ホミーングしてきてるだとっ!?」


『ブルブルッ!!』


「うおっと!」


 間一髪すれすれの所で飛び込みジャンプをし、俺は奴の突進攻撃を回避する事ができた。


――バシュ!――ガシャ――バシュ!


『ビュルル!!』


「うーんやっぱりはじかれるか……!」


 貫通弾をそのまま使い続ける事にしたものの、相手の甲羅が堅すぎてうまくダメージを与えられない。


「急所になる箇所ばかりに甲羅が着いているからな……」


 よりにもよってウィークポイントになりそうな頭部にはぶ厚い甲羅のヘルメットが着いている。あれをどうにかしてみないとこちらの弾数が持たない。


「正攻法が駄目ならどうする自分?」


 何か良いアイデアが思い浮かぶかもしれない。相手の動きを見て観察してみることにしよう。


『ブルルッ!!』


 頭のツノを使った振り回し攻撃をサンド・ライノスタートルが仕掛けてくる。


「うあぁっ!? いってぇ……」


 サンド・ライノスタートルの振り回し攻撃は、まるで金属バット二本分を勢いよく振られて受けたときに感じる痛みとよく似ている。

 痛みを我慢し、よろけながらもすかさず間合いを取り、修復材二本を使って回復を図る。


「メロンソーダ味なのはまだマシな方か」


 やたらと薬感のある治療薬だ。メロンソーダ味に感じたのは偶然かもしれない。


 このままやられているわけにもいかない。すかさず俺は銃を構えて相手を威嚇した。


『ブルル……!』


 前傾姿勢になり防御の構えでこちらの威嚇を諸としないようだ。来るならかかってこいと言わんばかりの気迫を感じる。……本当にこいつ臆病なのか……?


と思ったのもつかの間だった。


――ズダダダダダダダッ!!


「にっ、逃げた……」


 あいつなりにこれ以上の戦闘は合理的じゃないと感じたのだろうか……。踵を返してエリア9へと走り去って行ってしまった。


「おっ、追いかけないと!?」


 勝ち逃げなんて俺が許さん。絶対にあの甲羅を部位破壊に持っていく策略を考えなければ……。


 銃の中に装填してあった弾を通常弾に入れ替え、俺は擬態スーツを脱いでしまい。そのままエリア9へ移動していったターゲットを追跡するのであった。


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