21話:指名依頼クエスト『砂漠の臆病者 サンド・ライノスタートルを狩猟せよ!』
--キキィ。
「ハンターさん。目的地に到着しましたですぜ」
「……ん、あぁ。ありがとうございます」
いつのまにか俺は荷台で寝転がりながら寝ていた。
「……」
行者のおっさんが俺が降りるのを待っている。眠りまなこで立ち上がり、俺はそのまま荷物を抱えて荷台から降り立つ。
「ハンターさん。忘れ物ですぞ」
「あっ、あぁ。ありがとうございます、いっけねぇ、危うく武器なしで狩猟する所だったぜ……」
「ハンターさん。おめぇさん新米か? 身振り手振りを見てる限り。まだルーキークラスに上がりたてってところかい?」
「なんでわかるんです?」
「そりゃあ、長年この仕事をしてると嫌でもハンターさん達の立ち振る舞い方なんて一目見れば分かるようになるわけですわい」
行者のおっさんはホッホッホと愉快げに笑う。
「 なるほどですねー」
「うむうむ。さてと、そろそろワシは次のハンターさんの送迎をせんといかん」
「ここまで送ってくださってありがとうございました!」
「迎えは3日後じゃ。それまでには狩猟を終えるようにな」
「はい! 頑張ります!」
3日後に終われなければクエストは失敗になる。安全上、このように取り決められているのだ。ハンターズギルドと交わした契約には必ず従わなければならない。
行者のおっさんと別れ、俺はそのまま指定されたフィールドの安全地帯に赴いた後にベースキャンプを立て始める。目標時間は2時間くらいかな。あまり今から行う作業に手を取られる訳にもいかないし。
時間は有限っていうしな。
「さて、やりますか」
2泊3日の間だけれど。今の自分には快適なキャンプ設営をする技術はないけれども。自分が思うような思い思いのキャンプを作ってみようかな。
「うーん。とりあえず寝床を作らないといけないな」
まずはそこから取り掛かることにしよう。
それから30分くらいが経ち。最初は慣れない作業で手の動きが遅かったものの、無事にテントを立てる作業を終えた。
「あとはかまどとかの衣食住に必要な設備の設営かな」
1人でやることは本当に多いのだなぁと、俺は次の作業に取り掛かりながら実感を得ていた。
--2時間後。
「よし、さっそく行きますか。狩りへ」
いよいよ始まる狩猟クエスト。今回の相手はこのボルカノ砂漠に生息しているサンド・ライノスタートルというモンスターだ。
「とりあえずエリア6に向かうか」
武器を肩にかけ、俺は駆け足気味に走り、エリア6こと『切り立つ崖の砂道』へと向かった。
「改めて見ると自然の芸術品なんだなぁ……」
天に向けてそびえ立つ双子岩の岩壁に圧倒的な偉大さを感じている。
左右に立ち並ぶ岩壁の高さは20メートルくらいだろう。地面はザラザラとした砂地で、靴底で地面を擦るとザリザリとした感触と共に、岩肌のゴツゴツとした感触が伝わってくる。どうやら吹き抜けからくる風と共にこの岩肌の地面に砂が降り積もっているようだ。
植生物はあまりなく、よくてボルカノサボテンと何の植物なのか解らない枯れ草が生えているだけだ。
仕事で来たでなければこのままこの景色を絵に描いてみたい。絵を描くという特技は転生前から身につけていたスキルで、よく画用紙を使って自分が思う景色を想像しながら、それを水彩画で表現していた。小学校の時はよくその絵で金賞をよくもらった事がある。いまはハンターの仕事で忙しいけど、生活に余裕が出来たらまた趣味程度に再会してみたいな。
「いけね。いまは仕事に集中しなきゃいけないな」
このクエストはとても自分にとって重要な内容となっている。この戦いは自分にとって大切な物なんだ。
「いまの所はターゲットがいるような気配はないな」
地面を観察しておこう。もしかすると足跡が残っている筈だ。ここはサンド・ライノスタートルが縄張りを張っているエリアだ。既に俺は土足で敵の陣地に忍び込んでいる。今さっきまで気を抜いていたのは横着だったかもしれない。
「……どこも岩だらけにしか見えないぜ」
丁度遮蔽物になりそうなゴツゴツとした岩が沢山無造作に並んでいる。これも両端にある岩壁から崩れ落ちてきた物なのだろう。大小と様々な形状をした岩石があるため、よくよく立ち回り方を考えていかないといけないな。
実際に下見はしたものの、日を追う事にフィールドの地形は少しずつ変わっていく。昨日はそうであっても、今日のようにここには沢山の岩石が地面に転がり落ちている事だってある。
「次のエリアは7か。大空洞だったな」
で、その次のエリア8が大空洞の入り口だったはずだ。洞窟つながりになるから遭遇戦にはきおつけておこう。
「一緒に戦ってくれる仲間がいてくれたら良かったのになぁ」
って思って話したら絶対にあの人はこう言葉を返してくるだろう。
「ルールを守れねぇ奴にハンターをやっていく資格はねぇよ」
カミルさんの睨み付ける表情が思い浮かべることが出来る。ですよねー。
「でも本当に今の俺が倒せる相手なのかな?」
カミルさんがいってたけど、今持っている武器でも容易に倒せるモンスターらしい。図鑑で確認してみたけど、自分が読んで解釈して見た限りでは難しそうな相手だと感じている。
「まず第一に。ライノスタートルは砂漠界屈指の臆病者って言われているみたいだしな」
どこぞのメタルモンスターなんだよと突っ込みたくはなるけれど。自然界ではごく普通の防衛手段なんだよな。勇猛果敢に天敵と戦うよりは臆病に生き抜くっていうのって。考え方次第では色々と意見がでてくるよね。
「臆病な性格のモンスターの扱い方ってどうすればいいんだろう?」
その疑問に関してミステルさんに聞いてみたら。
『相手に見つからないように急所ばかりを狙って狙撃すればいい話だ』
『えっ、ただそれだけなんですか??』
たったひと言だけのアドバイスだった。その後はずっとミステルさんは手元のティーカップに注がれた紅茶を澄ました顔で啜っているばかりだったのを覚えている。
「うーんあのすまし顔はまさしく大手クランの副団長の風格そのものだったな……」
俺もあんな風に将来の後輩達の質問に対してそうしてみたい。自分に人望があればの話なんだけど。
「ぼやいてても仕方が無いか。とりあえず周辺の地形の把握をしておいて。んで、あとは狙撃が出来そうな場所の確保をしよう」
これからの段取りが決まった。とりあえずこの周辺の地形は大体解った。隅々を見ていると時間が足りないのである程度使えそうな遮蔽物を限定的に観察しておいて、次のエリアの方へ向かうことにしよう。
と、そう思っていた直後。
――ドッス。ドッス。ドッス。
「ん?」
エリア7に続く入り口から聞こえてくる重厚感のある足音が、俺の立つエリア6に続く入り口付近にまで聞こえてきている。
それは重くリズム感のある足並みの音。
「もしかすると……」
とにかく今は物陰に隠れて様子をうかがう方が得策だろう。もしかするとターゲットではなくて……。
――流れ者のモンスターって、基本的にそとからの外来種じゃないですか。在来種はその影響を受けて縄張り意識が強くなってイライラしたりする事があるんですって。
受け付けのお姉さんが行っていたそいつだったとしたら。
「…………来た」
俺はすかさず近くの大きな岩陰に身を潜めた。その直後に気配が大きくなっていくの肌で感じ取りる。既にモンスターがこの場所のど真ん中に立ち尽くしている感じがする。
「……あれは」
そっと顔を少しだけだして覗いてみると。
「ホワイエットドラゴン……」
そいつはこの砂漠にはいてはいけない招かざるモンスターだった。
――ググクッ、グルグル……。
「まっ、まさかこっちの気配を感じ取っているんじゃ……?」
だとしたら完全にこちらの狙撃は不利な方向へ働いてしまうことになる。今の銃でとうてい太刀打ちできる相手じゃない……! あれはミステルさんレベルのハンターが相手するモンスターだ……っ! やったら倍になってやり替えされてしまう……!
「いっ、祈るしかないのか……? 俺が食べられないことを……」
ホワイエットドラゴンは別名白翼竜と呼ばれるモンスターだ。
全身が純白の肌で覆われており、目は黒目に瞳がエメラルドという特殊な目をしている。
翼は背中に2つあり、4つ足で地面を歩く首長のドラゴンだ。
そして一番恐れている事があって。
「あっ、あいつ確か人間を食べるのが好みだったよな……?」
手の震えが収まらない……。武者震いとかじゃなくて、これは完全に死への恐怖からきている物だった。
なんでか知らんが、あのドラゴンは人を好んで食べる習性があると言われており、力は強く、そして滅茶苦茶堅いらしい。なので一般人はものの3秒で食い殺されてしまう。俺みたいなレベルのハンターでも1分戦えて御の字らしい……。
てか、ハンターでも被害者が後を絶たない厄災級のモンスターが何故にこんな所にいるんだよ……!?
「…………」
頼む。これ以上ここにはいないでくれ……!
引き返せない。クエストをリタイアだなんてしようと思えばミステルさんに迷惑がかかってしまう……。
「…………あっ」
なんだよ俺。またあのときの様にひらめいてしまったじゃないか……!
「サンデーの時に作った餌でどうにかできそうかな……?」
それはザワザワとした掛けだった。
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