フローズンマイフレンド


冷凍マグロとおれは友だち

あいつは冷たい倉庫の中でカチコチ

大きく見開かれた目に浮かぶ哀しみ

おれはダウンジャケットを大げさに羽織り

友だちに話しかけることにした

冷凍マグロはおれの話しを黙って聞き

けして反論なんてすることもせずに

「マグロって、うまいよなあ?」

なんて問いに

ただそこにいるだけ

気が付けばおれは冷凍マグロの上に腰掛けていた

それって友だちって呼べるのか?

誰かの問いにおれは答えるだろう

友だちだ

やがておれは冷たい倉庫を出て寿司屋へと向かう

食べるのはもちろんマグロオンリー

友だちの友だち

だがもしかしたらこいつは生前おれの友だちと仲が悪かったかもしれないではないか

皿の上のマグロをじっと見つめてみた

勘定も払わずにそれを持ったまま表へ飛び出した

外は晴天だった

再び肌寒い倉庫の中へ戻って来た

「はあはあ………」

自分の吐く息が白かった

友だちはさっきと同じ場所で横たわっていた

おれは持って来た寿司を提示した

「これってさあ、お前の友だったのか?」

だが友だちは何も言わない

多分、何も言いたくないのだろう


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る