第3話 不良番長 x 背中を任せる相棒


 ひょんなことから「セックスをしないと出られない部屋」の管理人になった俺。


 今日のターゲットは2人の不良男子だ。

 1人目は、「海浜幕張高校の狂犬」と呼ばれる武闘派男子高校生、太田沖彦。

 2人目は、太田の右腕として幾人もの抗争相手を病院送りにした、風間カイザ。


 ククク、若い男同士が欲望のままに繋がりを求める様を存分に見せてもらおうか。


/**********/


 白い部屋の中で目を覚ました太田は、あたりを見回してすぐ傍にいた風間をゆさぶり起こした。

「……相棒! 起きろ、相棒!」

「う……太田か。ここは?」

「わからねえ。チクショウ、このオレとしたことが!」

「落ち着け太田、状況を整理しよう」

「そ、そうだな。すまねえ」

「オレたちは葛西臨海高校の奴らのアジトに向かっていた。そこまでは確かだな?」

「ああ。今日こそ奴らをぶっ潰してやるんだ」

「だが気付くとここでブッ倒れていた。仲間の姿も見えない」

「なんだか妙に体が重いぜ。クスリでも嗅がされたか?」

「フム……クスリのせいで記憶が曖昧なのかもしれないな。オレも何があったか思い出せない」

「クソッ、何なんだよここは。壁も床も天井も真っ白で窓もねえ。どこかのホテルか?」

「待て、太田。あそこの壁、……ドアか? ちょっと調べてみよう」

 2人は手を取り、引っ張り支えながら立ち上がるとドア枠のある壁まで近づいた。

「……フム、ここの壁だけ少しガタつくようだな。だが、ドアノブも無い」

「何だァ? 自動ドアか?」

「自動ドアなら近づくだけで開くだろうし、上にはセンサーが……ウッ」

 視線を上にあげた風間が身じろぐ。

 それに気づいて太田も彼と同じ方向を見上げた。

「なっ……なんだァこいつは。何の冗談だァ、オイ」

 二人の視線の先にある物。それはこう書かれた文字だった。


『セックスをしないと出られない部屋』


「オイオイオイ、何をしろって? 相棒、こいつは……」

「セックスだ。そう書いてあるな」

「そ、そんなこたァ読めば分かるわ! でもよ、ここにはどう見ても女はいねぇだろ」

 顔を赤らめて憤る太田だが、風間は静かに眉間にしわを寄せているだけで動じていない。

「……聞いたことがある。男同士でもセックスができると」

「バ、バッキャロー! そんなわけがあるか! おい相棒、誰に聞いたんだそんな与太話!」

「オレの姉だ。まぁいい、オレもお前相手にそんな事をするつもりはない」

「え、オレ相手じゃダメなのかよ……」

「話をややこしくするな、太田。女としたことも無いお前にはまだ早い」

「お前だってしたことねえだろう、相棒!」

「……ふ。それよりも、どうにかしてここから出ないとな」

「おお! そうだったぜ! 待ってろよ葛西臨海高校の野郎ども。こんな扉なんてなぁ……こうだ!」


 ドゴォ


「~~~~~~~~ッッ!?」

「フム、叩いて壊れるほどヤワじゃなさそうだな」

「……!! ………!!!」

「太田、考えも無しに殴るな。大切な拳の骨にヒビでも入ったらどうする」

「うっせーやい。こんなもんはなぁ、叩けば壊れるって相場が決まってんだ!」

「お前は少し休んでいろ。何事もまずは分析からだ」

 風間は扉に手を添わせて入念に調べる。

 時折強く押してガタガタと扉の板を鳴らした。

「フム、どうやらこの扉は左側でロックされているらしい。触ってみろ、右側の方が揺れ幅が大きい」

 風間は太田の手を取り扉の右側を押させた。

「ふーん、よく分からねえけど、扉の右側をブッ叩けばいいんだな?」

 太田はブンブンと肩を回して再び殴る体勢を見せる。

「まあ待て、左側のロックを壊さないと開かないだろう」

「じゃあ左側か!」

「話は最後まで聞け、太田。ただ左側を殴っても衝撃が吸収されるだけだ。まずドアの右側を殴って左側を浮かせる。その瞬間に左側を殴れば反動でロックに衝撃が伝わるだろう」

「なるほど、よく分からねえ! でも、お前の話を信じるぜ、相棒!」

「……太田」

「さあ、作戦が決まったなら後はやるだけだぜ。お前はどっちを殴る?」

「フッ……じゃあオレが左だ。お前が殴った次の瞬間を正確に狙ってやる。太田、お前はただ全力で殴ればいい」

「ならオレは右だな! 任せたぜ、相棒」


 2人は扉の前で姿勢を正し、精神を統一して拳を構える。


「スーっ、フーっ。呼吸を合わせろ、相棒!」

「ああ、同時に行くぜ! 太田!」


 そして二人は視線を交わすと、拳を振りかぶり……。


/**********/


 信頼しあった親友が呼吸を合わせる?

 同時に行く!?

 そんなんもうセックスじゃん。


 ダンッ!


 俺は拳を叩き付けるように開錠ボタンを押した。



 そういえばこの開錠ボタン、鍵は開けるけど扉は自動で開かないんだよなぁ。

 まあいいか。

 俺は監視モニターから目を背け、次のターゲットのリストを手繰り寄せた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る