血に塗れる者達

 男達はみな、耳から黒いピアスを垂らしている。昨日り合った賞金首狩りバウンティハンター達だ。

 あの時は5人で、その後4人に減った彼らだが、今は8人に増えている。

 どいつもこいつも筋骨隆々で、同じようなツラをしているので、どの4人が今回増えたヤツなのかすらも判然としない。

 前回はレーヴェの剣に良いようにしてやられたからか、剣の間合いの外から攻撃できる槍を全員が携えていた。


「……悪いな。雑魚のツラをいちいち覚えておくほど利口じゃねぇんだ」

「その余裕、ぶっ潰してやるよ。おい」

「おう」


 と、促された男が一歩前に出る。その腕は、ミィカを羽交い絞めにしていた。

 魔術はどうした、と思ったが、よく見ると指輪をしていない。魔術を奪われた15の小娘は、じたばた足を動かして無駄な抵抗を繰り返していた。

 不意を突かれて拘束され、指輪まで奪われたわけか。ったく、まだまだ素人だな。


「おっと、動くなよ?」

「ぃぁっ……!?」


 反射的に剣を握るも、苦しそうに喘ぐミィカを前にゆっくりと手を離す。男達は満足そうな下卑た笑みでこちらを見ていた。

 ……下手したてに出れば余計に舐められる。対等な関係性を押し付けるのが吉、か。


「おいおい、俺達はお前らギルドが残しやがった残飯を処理してやってんだぜ? それを邪魔するとはひでぇじゃねぇか」

「あ? 知るかよ。あんな赤ピアス共が幅を利かすだけの組織なんざどうでもいい」


 余裕を見せていた男の声が、途端に苛立たしげなものに変わった。

 ああ、確かにそうだ。実力社会のギルド界隈では、魔術の使えない黒ピアスは露骨に役立たず扱いされる。少しだけ、ほんの少しだけ同情した。


「へぇ……で? 頭数増やして得物まで変えたってのに、結局人質作戦か? 締まらねぇヤツらだな」

「俺達はお前と違ってお利口でな。確実に嬲れる方法を選んだだけだ」

「ははっ、見た目通りにクズな性格してるようで何よりだ」


 さっきの同情、撤回。こいつら、ギルドとか魔闘士だとか、そんなのはどうだっていいのだろう。単純に、暴れたいだけだ。

 賞金首狩りはただのバカか戦闘狂しか選ばないような仕事だと思っていたが、こいつらはそのどちらも兼ね備えているようだ。

 加えて、変に自尊心プライドも高い。控えめに言って、クソ鬱陶しい。


「で、俺をどう痛めつけたいんだ?」


 問うと、男達は互いの顔を見合わせ、またも下卑た笑みで頷き合った。


「俺らも鬼じゃねぇ。お前の態度次第でこの嬢ちゃんだけは無傷で解放しても良いぜ?」

「涙が出るくらいクソったれなご提案だなおい」


 まぁ、予想してはいた事だが。どうしたもんか、とミィカを見やると、


「わたくしの事は良いです! こんな男達の要求を呑んでは、っぁ……!」


 と言ってくれてる事だし、お言葉に甘えてやろうか。一瞬そう思ったが、羽交い絞めにされた細い腕は見るからに痛々しい。

 この状況下で助け出せるか? 槍による四方からの攻撃を掻い潜り、恐らくは盾にされるであろう小娘を救出しつつクズ共を殺す……、


(いや、さすがに厳しいな)


 なら、やるべき事は一つだ。レーヴェはおもむろに剣を地面に放り投げた。

 がらんがらん、と地面を転がるそれを見て、男達は安堵の笑みを浮かべ、ミィカは絶望に満ちた顔で唇を噛んだ。


「れ、レーヴェさん。わたくしの、わたくしの為に……!」


 違ぇよ、と言いたがったが、お涙頂戴の展開にしておいた方が都合が良い、か。

 無言を貫くレーヴェを見て、リーダー格と思しき男が目配せ。ミィカは宣言通りに解放された。

 が、気が付けば他の男達がレーヴェを取り囲んでいる。


「はっ、丸腰の一人を相手に八人掛かりか。臆病者チキンが、とっととやれや」

「ちっ……言われなくても、やってやるよ!」


 鮮血が、舞った。


 男達の槍が、次々と突き刺さる。腹を、背中を、足を、腕を、そして心臓を。

 全方位からの攻撃を避ける事など到底出来るはずもない。男達の浴びた返り血の夥しさが、それらが致命傷である事を雄弁に物語っている。

 血と共に全身の体温がごっそりと抜け落ちていく感覚。脱力して倒れかける体。だが、八本の槍に支えられて強制的に立たされたまま。


「れ、レーヴェさんっ!!? あ、あなた達、殺すつもりですの!?」

「ああ、殺すつもりだぜ? 嬢ちゃんも後で可愛がってやるから楽しみにしてな」

「そんな……わ、わたくしには、やらねばならない事があります。こんなところで、あなた達に屈したりは……!」

「威勢がいいなぁ。けどまぁ、この指輪がこっちにある限り何にも出来ねぇだろ?」


 怯えた表情で後ずさるミィカを一瞥し、リーダー格の男は血を吐くレーヴェの顔をにたにた笑いながら覗き込んだ。


「よぉ、痛ぇか? 痛ぇよなぁ? じきに楽になれるぜ。良かったなぁおい」

「そ、そんな死にぞこない放っといて、あのガキとっととヤっちまおうぜ! こんな上物のガキ、滅多に抱けねぇんだからよ!」

「っ、ヤるだの、抱くだの…………い、一体何の話を……」

「へへ、すぐに分かるだろうよ。ってわけで、嬢ちゃんは俺達がたっぷり可愛がってやるから、安心して女神さまとやらのとこへ逝けや」


 勝ち誇ったような歪んだ笑み。実際、勝ちを確信しているのだろう。


「……く、っはは」


 レーヴェもまた、笑みが漏れた。その拍子に口から血が零れる。男達が怪訝な表情になる。


「おい賞金首。死ぬ前にイカれたかよ?」

「ははは……死ぬ? 俺が?」


 もうそろそろ〝頃合い〟だな。この雑音、そろそろ消すとしよう。


「逝くのはそっちだ、バカが」

「何を…………ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁアアア!?」

「ぎゃああああああ! な、何だよこれぁぁぁぁああ!?」


 そして、阿鼻叫喚。

 レーヴェの返り血に塗れていた男達の体から、新たな鮮血が噴き出したのだ。

 体のどこかしらを失い、痛みに喘ぐ者。更には、首がもげ、胴体を切り離され、あっという間に絶命した者。

 獣との死闘が生んだモノとはまた別種の地獄絵図が、新たに形作られていた。レーヴェは体に刺さったままの槍を抜きながら目を細める。


「自業自得、だな。女神サマじゃなく、楽しい楽しい地獄がお待ちかねだぜ?」

「て、てめぇ……何で、生きて……」

「知ってどうする。今死ぬお前が、よ!」


 剣を拾い上げ、一閃。右足を切り離されてずるずると畦道を這うばかりだったリーダー格らしき男は、言葉も発せずに昏倒、息絶えた。

 残りは……三人か。それぞれ体のどこかしらを失っている彼らは、何が起きたのかを正確に理解する事も出来ず、ひたすらに狼狽した様子でレーヴェから距離を取った。


「な、なんだよお前! 何で俺達がこんな……!」

「賞金首を狩りに来たんだ。勿論、返り討ちに遭う事くらいは覚悟の上だよなぁ?」

「ひぃっ! ば、バケモノ……!」


 満身創痍の男達は我先にと駆け出し、無我夢中で農村を飛び出していった。レーヴェは一旦緊張の糸を解く。


(痛ってぇな……危うく意識飛びかけたぜクソが)


 痛みは当分引かないだろう。が、行動に支障をきたす程ではない。まだ、やれる。


「レーヴェ、さん、ですわよね……?」


 と、ミィカが恐々と声を掛けてきた。ま、気持ちは分からないでもないが。


「他の誰に見える。ほらよ」


 男の死体から指輪を取り返し、投げて渡す。ミィカはそれを受け取って指にはめつつも、こちらとの距離感を量りかねているようだった。


「いえ、あの……さっき確かにあなたは確かに槍で心臓を、ってレーヴェさん。さっきまであんなに血が出ていたのに……」

「説明は後だ。まだれるなら来い。ヤツらを追う」

「え? は、はい!」


 時間が惜しい。レーヴェは痛む体を叱咤して走り出す。

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