獣達と踊る

 篝火が最低限の明かりを振りまく暗闇の中、黒と赤が飛び交う。


 引っ切り無しに黒い人影と獣の影が交錯し、その度に血が夜空を舞う。歪んだ獣の鳴き声と遠吠えが入り混じっていく。

 そして時折発生する、眩いばかりの光と轟音を放つ、爆発。深夜の農村におよそ似つかわしくないそれらは、家の中で聞き耳を立てているであろう住民が地獄絵図を想像しても何らおかしくない。


「小娘、上だっ!」

「っぅ……!?」


 レーヴェの声に反応したミィカが、光を纏った手を上空にかざす。大口を開けて飛びかかってきた獣は、不可視の障壁に阻まれて失速、べしゃりと地面に落ちた。

 防御魔術シールドだ。攻撃魔術ほど精通してはいないが、基本魔術レベルのモノであれば防御魔術も使えると言っていた。獣の攻撃程度であれば苦にしないらしい。


「〝シングリム〟!」


 そして、追撃。炎の蛇が容赦なくその体を燃やし尽くす。


「……ふぅ。とりあえずは、こんなところか」


 最後の一体と思しき獣を切り伏せ、レーヴェは血を払いつつミィカに歩み寄る。


「どうだ、小娘。本物の殺し合いの感想は?」

「そう、ですね……あまり、この感覚に慣れたいとは、思いませんわ」

「ま、それが正常だな」


 息も絶え絶えな様子のミィカ。体力だとか魔力の問題じゃない。相手が獣とは言え、命を狩る、という行動は慣れていない者の心を想像以上に削る。

 水の入った革袋を手渡しつつ、レーヴェは彼女の立ち回りを思い返す。


「防御魔術の使い方、攻撃魔術のタイミングは、特に問題なかったように思う。爆発がいちいち大きすぎて視野を狭めているようにも見えたがな。必要最低限の爆発で仕留められるように加減が出来るのが理想だろう」

「はい……略式だけで撃退できたのは良かったですけど、魔力の制御と加減は今後の課題ですわね。精進します、わ」


 水をゆっくりと飲みながら、息を落ち着かせていく。が、その間も瞳はこちらを凝視し続けている。

 強くなりたい、という意志が伝わってきて、レーヴェは一つ頷いた。


「これも視野の話になるが、上空は常に警戒しろ。元々人間は、下よりも上の方が警戒心が薄い。獣は本能で、人間は経験則でそれを理解し、こちらの隙を突こうとして来る」

「はい……先ほどは、助かりました。ありがとうございます、レーヴェさん」

「今は共に依頼をこなすパートナーだ、いちいち礼なんざいらねぇ。鬱陶しい」

「その最後の、鬱陶しい、は絶対に蛇足だと思いますわよ?」


 唇を尖らせ、けれどどこか嬉しそうに言う。その指摘も十分鬱陶しいんだよ。何となく心中で毒づいた。


「……ん? おい小娘、喰らったのか?」


 と、気付く。ミィカの頬に、うっすらと血が滲んでいる事を。

 見る限り、獣の攻撃を防御魔術で防ぎ切れているように見えたのだが。ミィカは添えるように傷口に触れた。


「……あら、ホントですわ。全然気付きませんでした」

「どうやら防御魔術も課題みてぇだな」


 まぁ、ひとまずは上出来か。レーヴェは踵を返して歩き出した。


「今のは第一波かもしれねぇ。辺りを見回ってくる。お前は討ち漏らした獣がいねぇか見てろ。しぶとく生き延びられたら、報酬を渋られるかもしれねぇ」

「あ、はい。分かりましたわ」


 とは言ったものの、まだ獣が周囲にいる可能性は低い。本能に従う獣なら、あれだけ派手な戦闘の果てに呆気なく死に絶えた同胞を見て逃げ出さないわけがない。それでも見回ろうとしたのは、いつもの癖だった。

 だからこそ、失念していた。脅威が獣だけとは限らない事を。


「きゃあっ!?」

「っ! どうし、っ……!」


 振り返って彼女に駆け寄ったレーヴェは、篝火と獣の炎に照らされた人影が一つじゃない事にすぐに気付く。


「お前らは……」

「よう、昨日ぶりだなぁ? 腐れ賞金首」


 見覚えのある顔が、そこにいた。

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