それぞれのお仕事

「そういやレーヴェ君、賞金額上がってたわよ? 今度は金貨5枚だってさ。人気者は辛いにゃ~?」

「ちっ、鬱陶しい。また勘違いした雑魚共が群がってくるじゃねぇか」

「金貨5枚……わたくしがレーヴェさんに最初に提示した額と同じですわね。この偶然、運命的なモノを感じたりしません?」

「しねぇな、微塵も」


 お互いの近況をそこそこに話しつつ歩く事数分、すぐに宿に辿り着いた。

 質素、という表現が良く似合う宿だ。ソフィーネは安さとギルドからの近さだけで選んだと言っていたが、本当にそれくらいしか取り柄が無さそうだ。


「申し訳ありません、空き部屋はあと一つしかないのですが……」


 本当に申し訳なさそうに言う、でっぷりとした体格の宿の主人。レーヴェは腕を組み、ちらとソフィーネを見やった。


「……ガラガラ、ね」

「あれぇ? 今朝はホントにガラガラだったのに。いや、ホントに」


 よくよく話を聞けば、団体客が昼過ぎに来たとの事。ひとまず、面白そうだから、という理由で空きの無い宿に案内された可能性は無くなった……が、


「本格的に日も暮れて来た事だし、今から他の宿を探すのもな」

「結構部屋広めだし、一緒に泊まればいいっしょ。レーヴェ君とミィカちゃんで」

「だ、ダメですわ!!」


 と、声を荒らげるミィカ。何故かレーヴェに突っかかって来る。


「わわわたくしは淑女レディですのよ!? 殿方と一緒の寝室だなんて、あああり得ませんわ!」

「あークソ、いちいちうっせぇな……主人。その部屋、手配してくれ。小娘、お前はソフィーネの部屋だ。いいな」

「は、はい。分かり、ましたわ」


 なおも申し訳なさそうな宿屋の主人に連れられて空き部屋へ。必要最低限のものしか置かれていないが、予想していたよりもしっかりとした造りの部屋だった。

 隙間風や雨漏りが当たり前みたいな、安さの代わりに他の全てを投げ捨てている宿を幾度となく見てきた身からすれば、主人の誠実な対応も含めて好感触だ。

 これなら意外と美味いメシも出されるかもしれねぇな。そんな事を思いつつ、荷物を適当に部屋に放り投げ、レーヴェはソフィーネの部屋へと向かった。


「おい、入るぞ」

「はいは~い」


 中に入るレーヴェを出迎える二人。からかうような笑みを浮かべるソフィーネと、


「……なにキレてんだ、小娘」


 何故か頬を膨らませて睨み付けてくるミィカ。彼女は少しの間を置いて口を開いた。


「女性の部屋を訪ねる時は、ノックの一つでもするのが礼儀ではありません?」

「声掛けただろうが」

「それだけでは十分とは言えません。これはマナーの問題です。次からはノックを二回、その後に声を掛けてから入るようにした方が良いですわよ?」


 めんどくせぇな。自分が人として正しい、とでも言いたげなツラが鬱陶しい。が、


「……覚えてたら、な」


 少しは依頼主サマに合わせてやるとするか。肩をそびやかして返すレーヴェを、ミィカは嬉しそうにはにかんで見ていた。


「さてさて、なんか二人が良い雰囲気になったところで」


 と、ソフィーネが場の空気を変えるように声を張り、イスに座った。レーヴェとミィカも同様に座り、テーブルを囲む。つーか何が良い雰囲気だてめぇ。


「仕事のお時間だにゃ~。レーヴェ君、今回はどんな依頼を御所望かにゃ?」

「獣討伐だ。報酬の量は問わない」

「あの……依頼を斡旋するという事は、ソフィーネさんはギルドに所属してらっしゃるんですの?」

「ん? あー、ミィカちゃんには馴染みがないか~」


 いつもの如く好奇心丸出しで身を乗り出したミィカが問うと、ソフィーネは楽しそうに肩を揺らした。


「あたしはあくまでフリーの情報屋。ギルドで余っちゃってる依頼をあたしが安く買って、情報の一つとしてギルド以外の場所で売ってるの。正規の手続きで依頼を受けられない、レーヴェ君みたいなヤツを相手にね。仲介人、ってとこかにゃ」

「はぁ……依頼を売る、なんて事もありますのね。でもそれは、依頼をギルドに出した人の信頼を裏切っている事になるのでは?」

「余ってるって事は、内容と報酬が割りに合わない面倒な依頼って事。だからってずっと放置してたら、それこそギルドの評判に傷がつく。ならもう別に魔闘士じゃなくていいからとっとと解決してこいやぁ、って感じ?」


 こういった涙ぐましい努力も交えて人々の信頼を勝ち取っているからこそ、今の魔術ギルドの地位がある。信用だの信頼だのの観点からすれば確かに問題はあるだろうが、この界隈では昔から続く慣習のようなものだ。言っても仕方ない。

 依頼主は悩みの種を取り除く事が出来、ギルドは少量の手数料と信頼を得て、依頼を達成した者も懐が潤う。誰も損などしていないのだ。

 レーヴェは何となく鼻を鳴らした。


「都合上、こっちの旨味は少ねぇが、贅沢は言えねぇからな」

「にゃはっ、世知辛い世の中ですぜぃ。ま、だからこそソフィーネお姉さんが食いっぱぐれなくて済むんだけどにゃ~?」

「はっ、何がお姉さん、だ。年齢とし、俺と同じだろうが」

「えぇっ!?」


 と、何故かミィカが目を見開いた。レーヴェとソフィーネを交互に見やる。


「んだよ、小娘」

「いえ、あの……ソフィーネさんは、今おいくつなんです?」

「ん? 18だけど?」

「ですよね! ソフィーネさん、見た目的に明らかにそれくらいですよね!」


 何故か声に力を込めたかと思えば、レーヴェをきっと睨むミィカ。


「なのに、レーヴェさんも同い歳? 18!? 大人な雰囲気に騙されました!」

「……遠回しに老け顔って言われてるのか? 俺は」

「そ、そうじゃありませんわ! 15のわたくしとそう変わらないくせに、わたくしを小娘呼ばわりな事に対して言ってるんです!」


 ばんばんと勢い良くテーブルを叩いて抗議の意を露わにする。それは淑女レディのやる事とかけ離れてると思うが。


「ふん、それこそ見た目的に、だ。自覚しろ小娘」

「むぅぅぅぅ! ソフィーネさん、この人は無神経です! 人でなしです!」

「まぁ、賞金首だからにゃ~」


 よしよし、とオニキスの髪を撫でながらミィカを落ち着かせるソフィーネ。もう一度溜息を吐き、レーヴェは懐から数枚の銀貨を取り出して指で弾いた。


「下らねぇ話はもういいだろ。あんのか無いのか、どっちだ?」

「勿論、取り揃えてございますぜぃ?」


 銀貨をキャッチしつつジャケットの裏にねじ込む。その代わりに何やら紙切れの束を引っ張り出し、それを手早くめくっていく。


「……ん、これとかどう? 場所は近くの農村。夜に獣の遠吠えが聞こえ、朝になったら作物が荒らされてる。その駆除の依頼ね」

「……ふむ」


 紙切れには依頼主の情報だとかが殴り書き同然に記されていた。依頼されたのはもう一週間以上も前のようだが、報酬が相場よりもかなり少ない。

 恐らくは村の財産を掻き集めて出した依頼なのだろうが、利を優先する魔闘士が情だけで動くはずもないか。と、ミィカが身を乗り出して甲高い声を上げた。


「まぁ! これって農村の方達からすると死活問題なのでは? 一週間以上も作物を荒らされ続けているのでしょう?」

「そだね~。見ての通り報酬はあってないようなもんだけど、どうする?」

「いいだろう。受けるぜ」


 レーヴェは差し出された紙切れを受け取った。ソフィーネが屈託なく笑う。


「毎度ありぃ! いやぁ、レーヴェ君は一度受けたら絶対に投げ出さずにやってくれるから、斡旋する側としては有難い限りだにゃ~」

「お前はそのお得意様に不意打ちで殴り掛かったんだな?」

「あれはスキンシップよ、スキンシップ♪」

「言ってろ」


 おもむろに立ち上がるレーヴェを見て、ソフィーネが二の句を継いだ。


「で、どうする? 早速今日の内に終わらせちゃう? 距離的にはすぐそこだけど」

「そうだな。小娘、お前も出来る限り早く強くなりてぇんだろ?」

「あ、はい。それは勿論」

「決まりだにゃ~。現場まで案内しますぜぃ?」

「まだ日が暮れるまで時間がある。メシ食ってから行くぞ。小娘、今のうちに死ぬ気で食っとけ。死にたくなければな」


 獣は魔獣よりも危険度は低いが、農民がこうしてなけなしの金を払ってまで依頼を出す程度には獰猛だ。舐めて掛かれば、死にかねない。

 特に魔術師のミィカは、魔術が使えなくなった時点で15の小娘に成り下がる。空腹でも魔術は使えるのかもしれないが、出来る限り腹を満たしておいた方が良いだろう。


「あ、はい。分かりました……けど、大食いと言われてるようで釈然としませんわ」「実際大食いだろうが。おら、とっとと食堂行くぞ小娘」

「レーヴェさんはホント、紳士的な気遣いを身に着けた方が良いと思いますわ!」

「んなもん、クソの役にも立たねぇな」

「にゃはっ……やっぱ面白いにゃ~、二人とも」


 呑気に笑うソフィーネを睨みつけ、レーヴェは足早に部屋を出て食堂に向かうのだった。

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