魔術ギルド

 『魔術ギルド』は、魔闘士グラディエーターと呼ばれる人間を擁する団体だ。

 その一番の目的は、一言で言えば〝金を稼ぐ事〟だ。元々傭兵やら狩人やらが集まって構成されていった背景もあり、彼らは第一に〝利〟を重んじる。


 日々の生活の中で生じた人々の悩みを汲み取り、それを魔闘士に依頼として斡旋して解決させる事で謝礼を得る。時には闘技場で死闘を演じ見物料を取り、時には前人未到の遺跡に挑んで人知を超えた宝を持ち帰る。

 荒事を好む者が多い上に金絡みの案件ばかりとあってトラブルも多く、世間的にはあまり良い目で見られていない部分もあるが、身近な障害を迅速に解決してくれるシステムには違いない。今日もまた、多くの依頼が舞い込んでいる事だろう。


 魔術ギルドが住民の問題を解決する組織である以上、どのような街に於いてもそれなりに目立つ場所に居を構えているモノだ。誰かに訊くまでもなく容易に場所が判明し、レーヴェ達はまっすぐにそちらへ向かっている。


「けど、良く考えたら……大丈夫なのですか?」


 串焼きを片手に、ミィカが思い出したように言う。


「何がだ」

「わたくし達、魔術ギルドに向かってるんですよね? ですが、レーヴェさんはその魔術ギルドに賞金を懸けられているのでは……」

「そうだな。ま、問題ねぇ」

「問題大アリじゃないですか! このままじゃレーヴェさん、ギルドの人達に捕まって火炙りにされちゃいます……っていうか、そもそもこうやって街を大っぴらに歩いているのもマズいんじゃ……!?」

「落ち着け小娘。勝手に火炙りにすんな」


 はるか昔、魔術を悪用して人々を苦しめた、〝魔女〟と呼ばれた者達がいた……らしい。彼らは火炙りの末、処刑されたと聞く。

 賞金首というマイナスなイメージから魔女を連想したのだろうか。小動物のようにきょろきょろと辺りを気にし始めるミィカの頭を抑え付け、レーヴェは誤解を解く事にした。


「いいか。賞金首と一言で言っても二種類ある。国が……いや、正確には教会が懸けた公のモノと、魔術ギルドが賞金を懸けた非公式のモノだ」

「え? そう、なんですの?」

「一般的には、教会が賞金懸けてるヤツの方が浸透してるな。お前の賞金首のイメージもそっちだ」


 その汚名を被せられるのは、大罪を犯した者がほとんどだ。国の政治に深く関わっている教会によって、野放しにする事が極めて危険だと判断されたわけだ。賞金額も最低で金貨数百枚と、かなりの高額となっている。

 対して魔術ギルドが定めた方の賞金首は、規模が小さい……というか、極めて内輪的な側面の強いシステムだ。


「魔術ギルドの魔闘士には、実力者も多いがバカも多い。昨日、勝ち目もねぇのに襲い掛かって来たのはそのバカの典型だな」

「はぁ。やっぱり好戦的な組織なんですのね、ギルドって」

「野蛮、の間違いだろ。頻繁に問題を起こすからな。で、問題を起こした魔闘士バカ共に賞金を懸けて他の魔闘士に狩らせる為のシステムが、ギルドの言う賞金首だ」


 そこに法的な強制力はない。あくまで、ギルドという一組織が独自に賞金を懸けただけだ。


「バカ共が起こした問題は、ギルドの監督不行き届きが原因だ。対外的に見て、ギルドはそいつを教育し直す義務がある……が、バカにいくら教育したところで時間の無駄だ。ならギルドから放り出して賞金を懸けた方が早いってな」


 だから、賞金首とは言っても人目を忍んで行動する必要はほとんどない。魔術ギルドとの繋がりが深いレムディプスに住んでいるミィカですら、その存在を知らなかったシステムだ。道行く一般人がレーヴェを見て騒ぎ立てる事などほぼありえない。

 と、ミィカが遠くに見えるギルドを見やりながら言う。


「賞金首と言うより、ギルドにとっての要注意人物をリスト化しているだけな気がしてきましたわ」

「言い得て妙だな。金輪際ギルドと関わり合いになるなよ、と脅しを掛けるのが主な目的で、積極的に捕まえるつもりはねぇんだろうよ」


 もちろん、変に目立つ真似をしてまたギルドに目を付けられたら色々面倒だろうが。


「そもそも賞金額がしょぼいから食い付く魔闘士もほとんどいねぇ。ま、昨日のバカ共みてぇなヤツらもいるし、たまに戦闘狂バトルマニアの魔闘士が喧嘩を売ってきたりもするが」

「はぇぇ、なるほどぉ……ん? でも、賞金を懸けられる、って事はレーヴェさんも以前は魔闘士グラディエーターだった事になるんですわよね。何をやらかしちゃったんです?」

「仲間殺し、だ」


 誤魔化すつもりも、ぼかす必要もない。厳然たる事実であり、過去。だが、


「そうですか」


 ミィカの反応は、他愛もない雑談に相槌を打つかのようだった。レーヴェは自然としかめっ面になった。


「おい、小娘」

「はい? 何です?」

「お前、意味分かってるのか。俺は仲間殺しをして賞金首にされた。で、今のお前は俺の仲間みてぇなモンだろうが」

「だって、レーヴェさんが何の理由もなくそんな事をするとは思えませんし? 何か理由があったんでしょう、きっと」


 変わらず串焼きを食べながら言う。


「……ちっ」


 このお花畑な脳みそは、一回死なないと治らないのだろう。こいつはこいつで本物のバカだな、と適当に思考を終わらせる。

 そうこう話す内に、目的地であるギルドがすぐそこまで迫っていた。

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